劇的な事業転換、「人事の力」で生き残ったネットフリックス

ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEO。当時の最高人材責任者パティ・マッコードとともに独特の企業文化を築き、同社のビジネスモデル転換と急成長を実現した。(Photo by Jacopo Raule/Getty Images)


DVDのレンタル宅配と動画配信、いま注力しているコンテンツ制作では、それぞれに求められる人材が根本的に異なる。

だからこそ、変わりゆく事業に対応できる柔軟で多彩なスキルを持つ人材を求めたのだ。NCDには、「社員に求める姿勢とスキル」として次の9つが特記されている。1.判断力、2.コミュニケーション能力、3.インパクトを与える力、4.好奇心、5.イノベーション、6.勇気、7.情熱、8.誠実さ、9.利他の精神。

そしてネットフリックスは、こうした資質を備えた人材を縛ろうとはしない。仕事に関する判断と責任を社員に委ねているのだ。同社の最高人材責任者を務めるタウニー・クランツは、「自由にアイデアを考えられる環境と、それを実現させる責任を社員に与えた結果、社内でイノベーションが起きている」と言う。

「社員にはいろいろなことを試すための余地をつくっています。経営陣は会社が取り組んでいる課題を社員に提示し、彼らの取り組みに期待しているのです」

こうした人事アプローチが戦略と相まって、ネットフリックスは単に動画配信にとどまらず、自ら人気コンテンツを作り出す制作者へ進化することができたのだ。

ネットフリックスが拠点を置くシリコンバレーは、人材の取り合いが激しいことで知られており、こうした「人」を重視する企業文化と戦略は各社に伝播している。優秀な人材を惹きつけるため、社屋や福利厚生にも力を入れているのはよく知られた話だ。

とはいえ、それは、何もスタートアップに限った話ではない。事実、戦略的に企業文化を築いてきた伝統的な大企業は、巧みに時代の変化に適応してきた。

GEもその一つだ。1970年代の不況期に多くの企業が社員育成プログラムを廃止するなか、GEはそれを経営戦略の観点から堅持した。その結果、多くの事業で成功している。近年、同社のジェフリー・イメルトCEOは「2020年までに業界トップ10に入るソフトウェア会社を目指す」と宣言し、IT・ソフトウェア部門を統合した「GEデジタル」を立ち上げている。130年以上の歴史を持つGEにこうしたしなやかな変革が可能なのも、戦略的な人材採用と人事施策を続けてきたおかげである。

事業は時代とともに変化を余儀なくされることもある。だからこそ、それを担うにふさわしい「人」を採り、力を発揮させることが大事だ。前出のNCDのスライドには、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著『星の王子さま』の一文が引用されている。

「船をつくりたいのなら、材木を集めるために人々を煽って、作業を分け、命令を下したりしないことだ。その代わりに、広大で無限の大海原へ思いを馳せさせるがいい」

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「2020年までに業界上位のソフトウェア企業入りを目指す」と宣言するGEのジェフリー・イメルトCEO。
豊富で多彩な人材が、多角的な経営戦略を遂行する武器となっている。(photograph by Ethan Miller)

文= Forbes JAPAN編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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