ビジネス

2016.03.30

日本の製薬会社のブランド力を高めるために

ブラジルはジカ熱の脅威に晒されている (Photo by Mario Tama/Getty Images)


世界で日本の存在感を示せ

GHITの副会長で、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の初代事務局長を務めたピーター・ピオットは指摘する。

「GHITのような取り組みは、世界での日本の存在感を強めることにつながります」

第一次安倍晋三内閣、福田康夫内閣で内閣特別顧問を務めた黒川清GHIT会長も、こう強調する。「長期的な視野に立てば、将来的に日本と日本企業にとって大きなメリットがあります」

新薬の開発は長期にわたるのが一般的で、企業の負担は大きい。薬価が低くなりがちな感染症薬であっても、開発自体に膨大なコストがかかるのは同じ。市場原理に任せていると、見過ごされてしまう。それだけに感染症の新薬開発は、官民連携が必要な分野なのだという。

先進国は少子高齢化による人口減少が続く一方、50年には世界の人口90億人のうち、約6割をアジア、アフリカが占めると予測されている。

新薬の開発によってNTDs(熱帯地域で蔓延している感染症)を制圧できれば、いずれはそこが大きな市場になる。その時、NTDs制圧の支援をした日本の製薬会社のブランド力は、今よりもずっと高まっているはずだ。黒川は言う。

「ソニーやトヨタなら、アジアやアフリカでも知られているでしょう。でも、日本の製薬会社は途上国では無名と言っていい。日本の製薬会社は、新薬を作るためのいいシードをたくさん持っている。それをグローバルで生かす発想を持てば、もっと成長できる可能性があります。年間1億円の投資で世界での宣伝効果が期待できるなら、安いくらいです」

立ち上げからわずか3年、GHITはすでに40件以上の創薬プロジェクトに54億円を投資。そのうち6件が、すでに途上国で臨床試験に入っている。

GHITのCEO、スリングスビーは今、少年時代に目にした感染症の根絶に、新薬の開発で挑んでいる。

BT Slingsby(BT スリングスビー)◎1976年、米国生まれ。2000年ブラウン大学卒業、01年スタンフォード大学大学院を経て、京都大学(修士)、東京大学(博士)、ジョージ・ワシントン大学(医学博士)を修了。10年エーザイ、グローバルアクセス戦略室室長。13年から現職。39歳。

フォスター・マーティン、大木戸 歩 = 文 ダミエン・シュマン = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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