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2016.03.21

VW不祥事発生の欧州の自動車業界、統計は信頼できる?

Photo by Harold Cunningham/Getty Images

欧州自動車工業会(ACEA)は16日、2016年2月の欧州連合(EU)・欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国の新車登録台数が前年同月比で14.3%の増加を記録したと発表した。フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車の排ガス不正問題「ディーゼルゲート」事件が明るみに出て以来、自動車メーカーだけでなくエコノミストやアナリストらの間でも、同社に対する注目度はかつてなく高まっている。

最大の疑問点となっているのは、ディーゼルゲートがVW車の販売に深刻な影響を及ぼしたのかどうかということだ。英紙サンデー・タイムズも先ごろ、「このスキャンダルはVWを破壊したか?」という記事を掲載している。実際のところはどうなのだろうか?

VWグループのEUでの販売は同月、8%増となった。予想されていたほどの「事件」の影響はなかったのかもしれない。だが、フィナンシャル・タイムズは、「VWは欧州の競合他社を追いかける存在になっている。依然として、消費者の信頼感を失ったことの影響を受けている」と失望を隠していない。



VWは問題が暴かれるずっと以前から、EU域内のその他メーカーに遅れを取っていた。2015年には域内市場全体での新車登録台数が前年比9%増えたなかで、同社は 6.1%増にとどまった。

そこで、一つの指標として注目されているのが、上記の表だ。VWの名は、下位に記されている。これは、同社が発表する販売台数が、実際に顧客に販売した台数に近い数字だということを意味している。どういうことだろうか──。

欧州の自動車業界にまん延する「パンチング」

ドイツのデュースブルク・エッセン大学がまとめたこの表をみると、各社は必ずしも、正確な新車登録台数を公表していないことが分かる。この表は、ドイツで2016年2月に新規登録された車のうち平均35.1%が、実際にはメーカーまたはディーラーによって購入されていたということを示すものだ。一部のメーカーでは、この割合は半数近くにまで上っている。

こうした販売戦略は、欧州では数年前から行われてきた。だが、米国でも注目されるようになったのは最近のことだ。米紙オートモーティブ・ニュースは、「自動車メーカー各社は業績を引き上げるために、独創的な戦略を駆使している」として、次のように伝えている。

「最も一般的なのは、パンチングと呼ばれるものだ。ディーラーが自社の在庫から車を購入し、試乗車や代車として使用することで、高額のボーナスがもらえるシステムで、その車はただディーラーの駐車スペースに放置される場合もある。その後、走行距離計がほとんどゼロを指したままその車は、中古車の在庫に数えられるようになる」
販売に関する統計に含まれる数字の多くがこうした操作によるものであれば、数字から判断するという意義あることが、現実的には無意味な行動になってしまう。同大学のデューデンホーファー教授によると、例えばドイツの新車市場は、「公式統計よりずっと悪い状況だ」という。

VWは消費者の期待に応えるべき

トヨタやゼネラルモーターズ(GM)など、過去にスキャンダルを起こした各社の経験は、製造を請け負うOEMメーカーがメディアのバッシングに苦しむ一方で、顧客の行動はそうした報道の影響をほとんど受けないことを幾度となく示してきた。
先ごろの不祥事によって、世界最大の自動車メーカーになるという目標の実現が無期限に延期されたVWは改めて、今後のために必要な利益を得ることに集中し直さなくてはならない。

編集 = 木内涼子

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