ビジネス

2016.03.27

日本人エンジニアの覆面座談会 in シリコンバレー

photographs by Ramin Rahimian


ーシリコンバレーで働く醍醐味はどこにありますか?

N:世の中のスタンダードを変えていけるってことですね。最近だとウーバーとかエアビーアンドビーとか、新しいシェアリングビジネスが生まれて、法律が変わり、人々の生き方まで変わっていく。今ではサンフランシスコで車をもつ人はほとんどいなくなった。そんなふうに以前は当たり前だったことがどんどん変わっていく。

M:確かに、車をもつ人は減ったよね。遠くに行きたければレンタルすればいいだけだし。

S:あと、こちらにいないと最先端のテクノロジーに触れられない。シリコンバレーに比べて日本のテクノロジーは遅れてますよね。日本企業はリスクをとらないんで。ときどき日本からお客様が来るんですけど、うちの会社のテクノロジーを使うのに「ユースケース(導入例)をくれ」って言うんですよ。導入して本当に大丈夫なのかと。自分たちが最初の利用者になるリスクをとりたくないんです。でもそんなことをしているから、日本だけ2〜3年遅れてしまう。

M:日本らしい〜。

S:あとこっちで働くもうひとつの魅力は、人間関係が崩れても、ほかの会社にすぐに移れること。逃げ場がある。僕は2つ目の会社を半年くらいで辞めたけど、上司が変な人でうまくいかなかった。日本だと上司を選べないけど、こっちだと選べる。

O:アメリカの採用システムでいいなと思うのは、上司となる人が自分を採用するかどうかを決めること。日本だと人事が決めるから、上司と触れ合う機会もないまま入社して一緒に仕事をすることになる。こちらだと面接のときから上司がいろいろ質問をしてきて、自分にも上司を知る機会がある。すごく合理的なやり方だと思う。

S:入社時点で役職や仕事内容が決まっているから、入ってから思っていたのと違う仕事をさせられるということはほとんどないよね。

M:あと日本と比べて大きく違うのは、女性だからって仕事で不利にならない。日本では現実問題として、ある程度年齢のいった女性が仕事を見つけるのは大変。でも、こっちでは実力さえあれば関係ない。だから女性でやる気があるなら、こっちは働きやすいと思う。

N:女性にもチャンスはありますが、アメリカにも男女差別というのはある。同じ仕事内容でも女性の給料は70%くらいなのが現実。

M:あと日本と違って、こっちは働き場所も結構融通が利く。私は今、通勤に1時間半かかるので、週に2日は完全に自宅で仕事をしています。エンジニアはコンピュータがあれば、基本的にどこでも仕事ができるから。

N:僕の同僚もクロアチアから遠隔で仕事をしている人がいる。

M:うちもオーストラリアに1人いる!

ー逆に、シリコンバレーのここがきついというところは?

M:ソフトウェアはテクノロジーの流行り廃りが激しいですよね。たとえばプログラミング言語でいうと、JavaScriptのこのフレームワークがホットだとか。みんなすぐに飛びつくけど、2〜3年したらあれはどこへ行ったの、みたいな。そのへんの移り変わりが激しくて、もうちょっとみんな落ち着こうよ、と思う。

N:ハードウェアならアメリカよりも日本の方が優れていると思う。何年もかけて技術を洗練させて、簡単にはマネのできないモノを作っている。長年使っても壊れないし。

M:アップルの製品にも日本の部品がたくさん使われているもんね。

O:ひとつ困るのが、アメリカでは知識の伝承がないということ。人が流動的なので、何か問題が起きたとき、誰かその問題について詳しい人に相談しようと思っても、その人がもう会社を移っていて相談できないということが多々ある。

M:本当にそう!このコードを書いた人はどこにいるの、って。会社を辞めるときに引き継ぎも一応あるけど、ふつう2週間くらいだから表面的なのよね。

S:アメリカ企業も人材の流出には苦労しています。採用するのにもコストがかかるので。数年前にアップルやグーグル、アドビなどの大手数社が「互いのエンジニアを引き抜かない」という密約を交わしたこともあるくらい。あとでバレて従業員たちに訴えられましたけど。

N:今働いている社員の給料を上げた方が、新たに人を雇って教育するよりも安く済むんですけどね。離職率を抑えるのにアメリカの企業も苦労しているけど、なかなか下がらない。そういう僕たちもみんな転職しているし。

M:でもみんなすごい。シリコンバレーでやっていくって、誰でもできることじゃない。私、学生のときからこっちにいるから、日本に帰った人もたくさん見てきた。ビザがとれなかったとか、就職先が見つからなかったとか、景気が悪くてクビになったとか。それに運もある。でもこちらで長く働いている人はそれなりに頑張っている人たちだと思う。

ー今日はみなさん、貴重なお話をありがとうございました。

増谷康=インタビュー ラミン・ラヒミアン=写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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