ビジネス

2016.03.27

日本人エンジニアの覆面座談会 in シリコンバレー

photographs by Ramin Rahimian


ー仕事の忙しさはどうですか? アップルやアマゾンのブラック企業ぶりはよく耳にしますが......。

M:私の旦那はずっと前、アップルに勤めていたけど、「あそこではもう絶対に働きたくない」って。

N:僕もアップルにいたことがあるんですが、朝7時に出社して家に帰るのが夜中の1〜2時。土日もよく仕事していました。

M:それは異常!シリコンバレーではふつうそういう働き方はしない。だいたいみんな10〜18時でしょ。

N:労働時間でいうと1日8時間くらいの人もいるけど、平均は9〜10時間じゃないかな。開発チームは結構遅くまで働く人が多い。プランに合わせないといけないし、何か問題が発生したら時間がかかっても直さないといけないから。

S:その話で思い出すのが、うちの会社は1年くらい前に株式を公開したんだけど、社内で発表されたのがその1カ月前。それまでの3カ月間、僕ら社員は株式公開のことは知らされず、土日もずっと仕事させられてたんです。上からのプレッシャーがすごくて、なんでこんなに大変なんだろうって。で、僕が「もう辞める」と決心した週末の次の月曜に、社内で「株式公開します」というアナウンスがあって、結局とどまりました(笑)。その前に辞めていった人もぱらぱらといましたけど。

M:もったいない!私もストックオプション(自社株を一定価格で購入する権利)を持ってるけれど、株式公開したら一晩で10倍以上になった。スタートアップだとそういうことはよくある。私の旦那もスタートアップに勤めていたけど、グーグルに買収された。

S:僕が入社したのはラウンドBで、結局、ラウンドEのあとに株式を公開した。Eくらいになると、大企業が出資をしてくるから、ストックオプションの価格も上がって旨みがなくなる。

N:そういうときはRSU(制限付き株)に切り替えるというやり方があるんですよ。ストックオプションのような権利じゃなくて、実際の株を数年に分けてもらうという。

ー日本人エンジニアに対する評価はどうですか?

M:うーん、とくに何もないと思う。真面目だとは思われているけど。

O:コミュニケーション能力が低いというのは事実かな。

N:僕から見ても、それが一番もったいない。日本人はあまり自分をアピールしない。たとえ10の能力があっても2くらいしかできないって言ってしまう。そういうところはキャリアにも結構影響しますよね。実際、アメリカの企業でリーダーシップのポジションに就いている日本人はほとんどいない。

M:日本人は「言わなくても察して」という文化だけど、そういうのは通用しない。アメリカは「言った者勝ち」の世界だから。でも言ったら話を聞いてくれる。通るか通らないかは別だけど、話を一応聞いてくれる。それはアメリカのいいところだと思う。

O:給料もふつうに交渉しますしね。

M:絶対するでしょ! 私なんていつもしてる。

S:よくあるのは、同時に数社からオファーをもらって、「ほかの会社はこれくらいの給料を提示しているんだからもっと上げてくれ」と、交渉するやり方。

N:あと、1つの会社だけからオファーをもらっているなら、これから自分がやりたい仕事とか、会社にどう貢献できるかを話して、それに見合った給料を出してくれという説得の仕方もある。

O:僕は以前、スタートアップから内定をもらったことがあるんです。スタートアップってお金がないので高い給料を出せないもの。で、相手から「どれくらいほしい?」って聞かれて、僕はかなり背伸びをした額を提示したんです。そうしたら「あ、それでいいんだ」って言われて、「しまった」と思いました。結局、その会社には入らなかったんですけどね。

N:スタートアップの場合は、そこまで最初の給料の額は気にしなくてもいいんです。株さえたくさんもらっておけば。会社にもよりますが、ストックオプションだと安く買えるので、それを売って儲けるというのが一般的。あと会社が大きくなるにしたがって、給与の見直しも必ずあるので。

M:私、見直しですごく給与が上がったことがある。30%くらいかな。「やったー」って。頼んでもいないのに。

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増谷康=インタビュー ラミン・ラヒミアン=写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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