中流旅館の入門編を世界に
さて、今回の日本酒海外アピールを経験して感じたことがある。日本酒を広めるには、外国人にわかりやすいブランドをつくるのが一番だということ。日本酒入門編というか、興味を持つきっかけになる酒を造ったほうが早いということだ。実際、車多酒造さんも枡田酒造店さんもそれぞれ天狗舞、満寿泉を海外に持参してアピールしたそうだが、なかなか理解されなかったという。だから今回の雪姫と六三四がミラノの人々に受け入れられたことを喜んでくれたし、入門編のブランドをつくるというアイデアは確かに効果的だと納得していた。
そこで、次なるテーマは日本の旅館をどう海外に理解してもらうか、である。ルレ・エ・シャトーのメンバーとなっている高級旅館、たとえば伊豆・修善寺の「あさば」や、箱根の「強羅花壇」、大阪の「柏屋」などは一部の裕福な外国人によく知られているけれど、もう少し中級の旅館を再生するきっかけとして、インバウンドのお客さんを誘致できるような何かをつくれないだろうか。たとえば、1泊5,000円程度で宿泊できる、オーベルジュと民宿の間くらいの旅館を、日本ではなく、あえて海外に建てるというアイデアはどうだろう。
これはぜひ、高級宿泊・飲食予約サイト「一休」の創業者である森正文社長にお願いした。先日Yahoo!の買収によって、一説によると400億円が森さんの懐に入ったというから、その半分の200億円を、日本の宿泊業にお返しするというのは素敵なことではないだろうか。森さんが旅館再生ファンドを立ち上げて、「旅館フジヤマ」でも「一休旅館」でもいいが、そのブランドを無償で貸与し、金利を極力安くしてお金を貸し、旅館界の天使となってくれたらと願う。そうして世界にいくつか建てられた一休旅館に親しんだ外国人が「本場に行こう!」と訪日してくれたら、地方も活気づくに違いない。RYOKANという英単語が生まれる日は近い。
小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動の他、京都市や熊本県など地方創生の企画にも携わっている。