ミラノでお披露目の巻
同年、幸運にも2本の酒を海外でアピールできるチャンスに恵まれた。
ミラノ国際博覧会の会期中に約1週間、SUSHITRAMと名付けられたトラム(路面電車)がミラノ市内を走った。これは寿司と日の丸のモチーフでラッピングしたトラムの車内で握り寿司と日本酒を楽しめるというイベントで、僕の企画はそのうち2日間だけだったが、おかげさまで満員御礼、雪姫と六三四も好評を博した。
閑話休題。せっかくミラノまで来たのだからと僕は2本の酒を持ってレストランをいくつか回ることにした。そのうちの1軒が、徳吉洋二さんがオーナーシェフをされているイタリアンレストランTOKUYOSHIだった。徳吉さんもとても気に入って、「ミラノでは日本酒はまだまだ理解されていないので、頑張って売ります!」と約束してくれた。
その店が昨年末にミシュランで1つ星になったと聞きつけ、「おめでとうございます」とメールを送ったら、衝撃的な返信があった。徳吉さんの母方の祖父母は料亭を経営していたのだが、博打打ちの祖父が破産して、泣く泣く手放すことになってしまった。その料亭を自宅として購入したのが、なんと僕の祖父だったというのだ(笑)。なんという偶然だろうか。祖父は確かに昭和20年、つまり終戦の年に疎開先の朝鮮半島から故郷の天草に戻って、有り金をはたいて料亭を買っている。メールには「祖父はOといいます」とあったので、父に確認のため電話をして、「あの家、なんていう人から買ったの?」と尋ねたら「Oさん」との返事が。うーん、間違いない。
その話を社員にすると、「小山家は料亭を買うのが好きなんですね」とおもしろがられた。確かに僕は創業150余年の老舗料亭「下鴨茶寮」を、縁あって引き継いでいる。なるほど、小山家のDNAだったのか。