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放送作家・脚本家、「くまモン」の生みの親。

和食に日本酒、浴衣に温泉、畳に布団。でも見える風景は地中海!?(illustration by Yusuke Saito)

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第8回。ミラノで2種類の日本酒を宣伝して思いついた。和食や日本酒を海外にアピールするなら、いっそ“旅館”という舞台を設えればいいかも。

昨年12月にビル・ゲイツが来日していたそうだ。会った方に話を聞いたら、以前のエネルギッシュな華やかさには少し欠けたという。御年60歳、老成にはまだ早いと思うのだが、第一線のフルタイムジョブから引退して7年余り、慈善団体を主な活動の舞台としている身をIT業界の帝王だった時代と比べるのも酷かもしれない。

そうかと思えば、60歳で飽くなき夢に挑んだ人もいる。山形県で35年続くカレー専門店「番紅花(ばんこうか)」を経営しているオーナーシェフの山川恒一さん。平成2(1990)年に国税庁醸造試験所での全国新酒鑑評会公開きき酒会に参加、吟醸酒の美味しさに目覚め、以来全国の酒蔵をめぐって好きな酒を集めている“日本酒マニア”である。おかげで店はカレー屋でありながら、「山形でも有数の銘酒が飲める店」へと変貌した。

僕は2009年4月に東北芸術工科大学の教授兼学科長に就任、山形に月1回通うようになり、ある時たまたまこの店に入った。カレー屋で日本酒?といぶかりながらも「何か美味しいお酒ありますか?」と尋ねると、返ってきた第一声は「何合、飲みます?」だった。飲める量を聞いて、出す順番を考えるのだという。僕らは一晩ですっかり意気投合し、付き合いはもう7年になる。

さて、その夢の話である。山川さんは「還暦を迎えたら理想の酒をプライベートで造る」と決めていた。ひと樽700万〜800万円するが、それで1,000本くらい造ることができる。「雪姫」という名で商標も取得、あとは適した酒蔵を探すだけということで、「東北泉」という酒を造っている高橋酒造店に依頼した。しかしその後、はたと気がついた。「十数席しかない自分の店で、どうやって1,000本もの酒をさばくのか!」と。普通なら依頼前に気がつくのかもしれないが、長年温めつづけた夢は山川さんのなかで果てしなく大きく育ってしまったに違いない。助けを求められた僕は、喜んでこのプライベートの日本酒造りに一枚噛むことにした。

僕たちは「酒蔵を毎年変えるのはどうだろう」という話で盛り上がり、翌年(2015年)は「天狗舞」で有名な石川県の車多(しゃた)酒造に相談した。天狗舞は能登杜氏四天王のひとり、中(なか)三郎さんが手がけている酒だが、その中さんが山川さんの情熱に心打たれて、引き受けてくれた。ただし、天狗舞は山廃仕込みのガツンとくる男っぽい酒で、雪姫という名とはイメージが真逆だ。そこで、今年雪姫にふさわしいのは富山県の桝田酒造店が造る「満寿泉」のプラチナ!と、ダメもとであたったところ、「車多酒造さんがお引き受けするなら……」と奇跡の快諾。こうして車多酒造の男酒「六三四(むさし)」、桝田酒造店の女酒「雪姫」という対のブランドが完成した。

イラストレーション=サイトウユウスケ

 

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