それでも名門Yコンビネーターの出身であることは、中村のビジネスにとって大きなプラスであることは間違いない。
「Yコンビネーターというブランドがあると、商談が前に進みやすい。尊敬されているし、入ることが難しいことでも知られているから。就職活動でトップスクールを卒業しているようなものです」
Yコンビネーターでの3か月間にわたる期間中、中村たちはビットコインに対応したデビットカードの試作版を作った。そのときに協力してくれたのは、日本のカード会社だったという。
実はシリコンバレーの企業に投資したいと考える日本企業は少なくない。だが多くの場合、人脈もノウハウもなく、どうすればいいかわからない。そんな企業が中村に注目しているのだ。
「フィンテックは今とても注目されている分野。私はもともと金融業界にいて、スタートアップ投資もやってきて、日本とのつながりもある。だからフィンテックに関心のある日本の投資家たちとつながるのは自然な流れでした。彼らが興味をもっている分野にたまたま自分がいられてラッキーだったと思います」
現在、中村は日本のIT大手、デジタルガレージがサンフランシスコに構える起業支援スペースを拠点とし、同社のほか、スクラム・ベンチャーズやリクルート、マネックスなどからも出資を受けている。出資を受けているのは、いずれ日本でのサービス展開を見据えているからだという。
中村に、シリコンバレーで成功するには何が必要だと思うかを尋ねると、一言、「粘り強さ(persistence)」という言葉が返ってきた。
「起業家として簡単な仕事は一つもない。まわりからは常に『NO』を突き付けられる。でもあきらめないで、前を向いて努力し続けるしかありません」
シリコンバレーでは、彼女をはじめとする起業家たちが今も奮闘している。
シフト・ペイメンツ◎名門起業支援プログラムの「Yコンビネーター」卒の中村恵(33)が2014年に創業。サンフランシスコに拠点を置くフィンテック系スタートアップ。昨夏、仮想通貨ビットコインを店頭で決済できるVISAデビットカード「Shift Card」を発行。従業員数は6人。