世界に向けて作る、というのがアメリカで成功するためのキーワードだとすれば、”アメリカ発”でシリコンバレーに挑む新しいタイプの起業家もいる。
シフト・ペイメンツ(Shift Payments)の中村メグこと、中村恵(33)に取材を申し込むと、「日本語よりも英語の方が話しやすい」からと、英語でのインタビューとなった。
中村はアメリカのエリート起業家養成機関として名高い「Yコンビネーター」を14年に卒業。昨年、電子通貨や仮想通貨ビットコインを決済できる同国初のデビットカード事業を立ち上げた。
出身はアメリカ中西部のシカゴ。両親とも日本人で、子供の頃は毎週末、嫌々「日本語補習校」に通い、日本語の読み書きを習得したという。大学卒業後、金融関係の仕事につき、2年間東京で暮らしたこともある。日本語は堪能だが、やはり英語の方がしっくりくる。
そんな中村が起業家に転身したのは「偶然だった」。
職場の同僚(現在の共同創業者)に誘われ、スタートアップの投資ビジネスにかかわるようになった。自分が担当している投資先の中にたまたまカード会社があり、一方でその同僚は仮想通貨の会社を担当。二つを合わせれば面白いビジネスができる、と考えたのがきっかけだ。
「フィンテック(金融とテクノロジーをかけ合わせた造語)で起業したいなんて思ったことは一度もない。やりたいことをただ続けていたら、起業家になっていたんです」
サンフランシスコにやってきて8年。中村にとって、シリコンバレーとはどんな場所だろうか。
「シリコンバレーはだれもが自分がやりたいことをやれる場所。チャンスがたくさんあって、リソースも驚くほど豊富。ここでは夢をもって何かを作れば、サポートを得られる。地元企業やベンチャーキャピタルもみんな、起業家に成功してほしいと願っている。ほかの街でもビジネスはできるけど、私たちにとっては間違いなくこの場所がベストです」
この土地に対する不満はとくにないと話す中村だが、起業家となって日々困難に直面している。
「サンフランシスコはほかのどの都市と比べても起業家にやさしい。それでもやはり、資金集めから提携先を見つけることまで、すべてが大変です」
とくに最近、頭を悩ませているのが採用だという。シリコンバレーには若いエンジニアはたくさんいるが、経験豊かで実力のある人材はたいていフェイスブックやグーグルなど大手にとられてしまう。創業したばかりのスタートアップでは、大手ほど高額の給料やベネフィットを出せないからだ。