電通総研が解き明かす「絵文字の世界的ブーム」のウラ側

illustration by Kenji Oguro


世界の18〜25歳までの若者のうち、80%が絵文字をコミュニケーションツールとして日常的に使用しているという調査に基づいたという。直感的な象形文字であるEmojiは、ヒトの本能に根ざしたグローバルコミュニケーションツールとして、今後マーケティング利用が一層進むだろう。

一方で、現在ほどヒトがテキスト情報処理をしている時代はかつてなかったとも言える。そのテキスト情報の氾濫に対して、ヒトがバランスを取るためにより感情をダイレクトに伝え合う「類人猿コミュニケーション」を好んできているのかもしれない。

さらに、スマホの予測変換で「も」と打てば「申し訳ありません」と表示され、指先一つでセルフィー画像を簡単に加工して送信できる時代は、感情表現の省エネが起きているとも考えられる。いったいこの表現にどれくらい気持ちがこもっているのか、デジタル上では判別しにくくなっている。いまリアリティのある感情表現のためには、プリミティブなものが効くのだ。

社会人を対象にしたスクールで、「シズル・クリエイター」のクラスが人気という。「シズル」とは肉が焼けるときの英語の擬音語を語源とする、もとは広告業界の専門用語であった。食欲をかきたてるために霧吹きやドライアイスを使った食品写真をシズル・カットと呼んでいたが、いまやシズルは食品に限らずモノの魅力を表現するときに使われる。その原点はヒトの祖先が獲物を捕って仲間と丸焼きにして食べた欲望だ。

肉汁、湯気、水滴などシズル表現は、ヒトが生理的に反応するジューシーさやフレッシュさのシグナルとなる。とりわけSNSでの共感を生み出すには、そそるビジュアルが大切になる。ヒトの本能に忠実なビジュアルにテキストを加えた総合的なシズルをつくる能力は、どんな領域においても応用可能だろう。

映画『スター・ウォーズ』の最新作でも、ハリソン・フォード扮するハン・ソロの相棒、どう見ても類人猿のチューバッカが、難局を超理性とでもいうべき本能で見事に打開していた。これからのコミュニケーション界におけるフォースの基準は、「それは、類人猿に伝わるか?」である。

田中宏和◎電通ビジネス・クリエーション・センタープロジェクト1部長。仕事とは別に同姓同名収集家としての活動を行い、一般社団法人「田中宏和の会」代表理事、また一般社団法人「東北ユースオーケストラ」事務局長を務める。

文=田中宏和 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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