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2016.03.22 16:01

心身共に働きやすい環境は「医療制度」をも守る

Micolas / shutterstock

各界のCEOが読むべき一冊をすすめる本誌の連載「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、「ゴホン!といえば龍角散」の龍角散、藤井隆太社長が、医療を取り囲む問題を取り上げた医療防衛 なぜ日本医師会は闘うのかを紹介する。

熱がある、咳が止まらない。そんなとき、まずは病院へ行くという人が多いでしょう。では、もし公的医療制度がなかったら、あなたはどうしますか?

公的医療制度は国によってさまざまですが、少ない自己負担で、医療機関を自分で選ぶことができる日本の制度は、世界で最も高く評価されているモデルです。日本人の平均寿命が、世界で突出しているのも、全ての国民に医療サービスが行き渡っているからだといえます。

ご存じのとおり、国民皆保険が始まった1961年に比べて状況は大きく変わりました。高齢化による医療費の急増は、国の財政を圧迫。企業が運営する組合健保の解散も後を絶ちません。しかし一番大きな問題は、消費税増税やTPP、混合診療など、医療制度の維持を難しくする課題が山積しているにもかかわらず、手厚い制度に慣れすぎて、その危機を直視しない人が多いことだと思うのです。

『医療防衛』は、作家・海堂尊のベストセラー小説に登場する主人公ふたりが物語を飛び出し、医療を取り囲む数々の問題に向き合うという斬新な一冊で、会話だけで構成されているため、小気味いいテンポを楽しみながら読み進めることができます。

読み終えたあと、医療制度を取り巻く課題の数々や、問題を解決するために政府や関連業界と交渉を進めている「日本医師会」の存在意義などを、自然と理解しているはずです。

そしてあらためて、身近な医療を振り返ってほしいのです。

あなたは、処方された薬を最後まで飲み切っていますか? 別な病院で、同じ効能の薬をもらっていませんか? 一緒に健康を考えてくれる信頼できる医師がいてくれますか? 病気を未然に防ぐために日ごろから健康管理を心がけていますか? 危機感を共有し、それぞれの立場から医療全体を考え、「最適化」に取り組むことが、国民の財産である医療制度を守る大切な一歩です。

私たち家庭薬業界も、セルフメディケーションの推進により、風邪などの軽い症状や未病・緩和ケアなどには公的負担のない大衆薬を病院で薦めてもらうという試みを進めています。

本格始動できれば、薬を飲む量を減らしながら医療費も削減し、なおかつ日本に昔からある、家庭薬とともに自分の身体と向き合いながら健康寿命を延伸することができます。そう、未来も「ゴホン!といえば龍角散」です。

最後に、経営者の皆さんは社員の健康も大切にしてください。仕事に励んでくれる社員のおかげで、企業は存り続けられるのです。教育と健康は「投資」と考え、心身ともに働きやすい環境づくりに気を配ることは、ひいては医療費抑制、医療制度維持につながるのです。「健康経営」を心がけましょう。

title:医療防衛 なぜ日本医師会は闘うのか
author:今村 聡 海堂 尊
data:角川書店762円+税/231ページ
book


ふじい・りゅうた◎1959年東京都生まれ。桐朋学園大学音楽学部研究科修了後、85年小林製薬に入社。三菱化成工業を経て、94年龍角散入社、翌年代表取締役社長に就任。創業200年企業の8代目として改革に携わり、倒産危機を救った。フルート奏者としても知られる。

内田まさみ = 構成

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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