ここでカギとなるのが、「リーダーシップ」である。冒頭でも述べたように、企業にとって特に大事なのがビジネス目標を達成する、つまり、利益を上げること。既存のビジネスは実績やデータがあるので利益化の目処が立つが、新規ビジネスにはそれがない。また、純粋に「成功しているビジネスに集中するべき」という考えを持つ人も社内にいるだろう。
大企業ともなれば、予算や社内政治などさまざまな障害がある。新しいビジネスを立ち上げると、最初の6〜9カ月は「蜜月期」で、結果を求められない。ただ、1年を過ぎた頃から予算の話が出てくる。そして、18か月経っても何かしらの変化がない場合は、CFO(最高財務責任者)が次年度の予算編成に待ったをかける。既存の部署も不満を抱くはずだ。つまり、この「魔の18か月」を乗り越えるためにも、強い指導力が不可欠なのである。
事実、GEの「ファストワークス」が成功したのも、同社のジェフリー・イメルトCEO(最高経営責任者・写真)の強いサポートがあってこそ。彼は号令をかけるに留まらず、新規事業の関係者とも緊密に連携している。
CEOが自らの時間を投じれば、自ずとその本気度が社員に伝わる。今日の成功が明日も約束されている訳ではない。だからこそ、未来にも通用する事業の選択肢についての戦略を立て、新規事業を育てるリーダーシップが重要となる。
大企業がイノベーションを起こすうえで、もう一つヒントになり得るのが、「メタ起業家」だ。これは多様な業種の企業やスタートアップ、行政機関、ベンチャー投資家、テクノロジストなどで構成されているエコ・システム(生態系)をつくる新種の起業家たちのこと。
こうしたメタ起業家は、自分たちの事業だけではなく、他者のビジネスも育てられるよう互いに支援している。社内で問題を解決しようとするのではなく、外部に協力を求めるのもよいのではないだろうか。
ロバート・ウォルコット◎米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授。同大学の研究所「ケロッグ・イノベーション・ネットワーク」の共同創設者兼所長も務める。専門はイノベーションと起業論。慶応大学ビジネス・スクールの元客員教授でもあり、日本の起業環境への理解も深い。