「年度末営業利益予想額が当初の目標より下回っていますが、どういう対策を考えていますか?」
ガイアックス社長の上田祐司に対し、会議冒頭に質問が飛び出した。役員でも部長でもなく、新卒1年目の社員からだ。
なぜ、そんなことが起きるのか。そこにガイアックスの強さがある。“情報のガラス張り”と上田がいうのは、売り上げ、利益の年度末着地数値、予算、経営会議議事録、社員満足度といった経営指標の見える化。各事業チームが実績、予想変更などを日々更新し、グループ全体で共有することで、誰もが毎日、経営状態を把握できる。
上田が見る情報と社員が見る情報には一切の乖離がない。これがガイアックス社員全員の経営者視点、特に、財務リテラシーを育んでいる。「若手に権限委譲や情報共有をせず、活躍のチャンスを削ぐのがもったいない。確率論では、30歳A君と22歳B君なら、B君のほうが世界を変える可能性が高いはず。この常識に気付いていない人が多い」
卒業生起業家には、15年に東証マザーズへ上場したピクスタ社長の古俣大介やAppBank取締役の村井智建らが名を連ね、アントレプレナーシップ溢れる社風を表す事例も枚挙に暇がない。スマートロック「Akerun」を手掛けるフォトシンス社長の河瀬航太は新卒4年目に起業した。
なぜ、ガイアックスは、これほど多くの優れた起業家を輩出しているのか。“ガラス張り経営”に加えた、もう一つの答えが“卒業生起業家のコミュニティ”にある。
ガイアックスでは、現役社員と卒業生起業家の距離感が近い。先輩経営者が新卒採用セミナーで自らのガイアックス体験談を語り、後輩が起業する際には出資も含めた親身なサポートを行う。これらが結果的に、新卒入社の7割が起業するという特異な組織文化を醸成している。
一般論で考えれば、優秀な若手が巣立っていくのは憂慮すべき状況にもみえる。だが、上田は全く意に介さない。「我々の関与度が100%か、10%かは小さな話です。優秀な若手のトップクラス人材を採用し、その能力を解放させたい。理想は社内で“爆発”させることだが、我々ではできない事業を社外で行えば、才能の大爆発につながり、社会に大きなインパクトを与えるかもしれないですから」
株式会社ガイアックス/1999年3月設立。ソーシャルメディア・シェアリングサービス事業、インキュベーション事業を行う。従業員数は127人(15年7月時点)。代表執行役社長の上田祐司は1974年生まれ、同志社大学経済学部卒。