日本人メジャーリーガーに喩えるなら、最初からアメリカでの起業に挑戦する人物は、さしずめ日本球界をすっ飛ばしてメジャーに挑戦した田澤純一タイプといえるだろう。それに対し、日本である程度ビジネスの地歩を固め、それからアメリカに進出する者たちもいて、こちらは野茂英雄タイプだといえる。
大阪に本社を置くChatWork(チャットワーク)の山本敏行(36)も、そんな野茂タイプの一人。57人の社員を率いる中堅IT企業の社長であり、ランチ代を支給したり、遠方への帰省費用を負担したりするなど、社員を大切にする独特の経営スタイルがメディアに取り上げられたこともある。
その山本が12年にシリコンバレーに進出するまでには、10年近い道のりがあった。最初に同地を意識するようになったのは、大学時代に語学留学でロサンゼルスに行ったあたりから。当時のアメリカはドットコム・バブルのまっただ中だが、本人いわく、「シリコンバレーのトレンドはまったく知らなかった」。
学生起業家だった山本は、当初、検索エンジンのビジネスをやっていたため、グーグルなどの動向を常に追い続けていた。
「でもいつも彼らをフォローして、日本で同じようなビジネスを展開するのは面白くない。グーグルやフェイスブックなど、次から次へと海外の新しいサービスが入ってくるのが悔しかったんです。自分たちでもチャレンジしたいなと」
こうして、10年に世界市場を見据えて、新サービスの開発を始め、翌年リリース。これが現在の主力商品で、チャットを使った仕事のコミュニケーションツール「チャットワーク」だ。