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酒井は、トヨタと旧来の日本企業の違いを子どもながらに感じていたという。小学校時代、各企業の工場見学に行った。ほかの企業と違って、トヨタの技術者は若手もベテランも垣根なく対等に意見を交わせるような風通しのよさそうな雰囲気がある。酒井は「いま振り返るとその雰囲気をつくるのに『大部屋』方式が役立っていたのではないか」と振り返る。

「大部屋」とはオフィスの壁や仕切りを取り払って、企画や設計、生産技術などの各担当者が連携を強めるトヨタの伝統である。それがいまや「OBEYA」という働き方としてアメリカで浸透している。

一方、多くの日本の企業はタレントを生かせていない。タレントのヘッドハンティングが盛んなアメリカ企業と違い、一般社員と処遇が変わらず、これは経営者と人事部ともに現代的な意味での人事施策を機能させていないことに等しい。

アメリカでの講演後、酒井はある航空機メーカーの社員から、小型ジェットの飛行を成功させた三菱航空機を引き合いに出して、こんな話を聞かされた。

「三菱などの古い財閥系の企業はアメリカの航空機産業の脅威にはならない。でもトヨタやホンダが参入してきたら、俺はすぐに別の業界に転職を考える」

日本ではいまも旧財閥系企業や総合電器メーカーに力があると信じられているが、国際的なビジネスの現場では違うのだ。数字を見ても明らかである。

2015年度、トヨタの売上高は約27兆円を超えた。一方、三菱重工の売上げは、約4兆円。これはトヨタの開発部門を前身とする子会社のデンソーの売上高4兆3,000円よりも低い。

また研究開発費だけでトヨタは1兆円、デンソーは5,000億円を投じているが、10兆円を売り上げる日立製作所でも約2,000億〜3,000億円にとどまる。いかにトヨタが開発に注力しているかがわかる。

「起業家のエリック・リースは編集に参加した著書『リーン顧客開発』で”誰も買いたがらないものを開発する悲劇を回避しよう”と語っているが、これは”売れない物をつくるのは犯罪である”という古くからの三河の常識を上品に言い換えているだけに過ぎません。これまで見てきたことからわかるように、実はアメリカの本当の強さは調査能力なんです」

アメリカの調査能力の背景には、日本に負けたという現実を直視し、そこから学ぼうとする謙虚さがある。

シリコンバレーを追う日本が学ぶべきものは、実は足下にある。誰も気にとめない三河。ここに働き方を変えるヒントはあったのだ。


山川 徹 = 文

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