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注目すべきは、彼らはトヨタ生産方式にとどまらず、トヨタの本質を追究した点だ。それはのちに「リーン開発」という名称になり、ここに酒井が指摘する働き方の仕組みがある。アメリカの企業が模倣したトヨタの組織設計の核心が、「主査制度」であった。

トヨタの主査(チーフエンジニア)とは担当する自動車のゼロからの企画、そして開発から販売すべてに責任を持つポジションだ。企業の社長と同等の権利と責任を与えられる主査は、様々な技術や知識を持つ各部署のメンバーの力を連携させて、最大限に生かす能力が求められる。

「知識労働には2種類ある」と酒井は続ける。「生産現場ではアウトプットが決まっている。誰がやっても同じでなくてはいけません。しかし開発は何をつくるのか決まっていない。富を生み出す創造的な知識労働です。トヨタでそれを担っていたのが主査を中心とした設計者たちなんです」

企業内でこうした役割を担う人材を、酒井は「タレント」と呼ぶ。タレントを軸としたチーム編成を組み、各分野のタレントの創造性や革新能力を最大限に生かすのだ。主査制度を築いた豊田英二は、「製品の社長」である主査に対して資金も生産設備も人材も惜しまずに投資した。

「現在、主査制度をうまく取り入れているのが、シリコンバレー。豊田喜一郎や英二を投資家に置き換えると、主査はベンチャー企業の社長。投資家が社長をスカウトして、投資しているわけです」

豊田市と同じ三河地方である愛知県岡崎市出身の酒井はこう言い切る。「誤解している日本人が多いのですが、いまのアメリカに新しいものはほとんどない。すべてトヨタを生んだ三河式経営の焼き直しにすぎません」

例えば、顧客の注文に応じて組み立てたパソコンを出荷して人気を博したDELLのBTOは、トヨタが70年に行ったセリカの外装やエンジンなどを自由に選べるフルチョイスシステムをモデルにしている。またアメリカの医療業界のリーンメディカルももとを辿れば、リーン生産からの派生だ。

そこからさらにトヨタのタレントを生かした働き方に影響を受けたのが、最近よく耳にする「デザイン・シンキング」であり、GEの「ファスト・ワークス」といえる。つまり、アメリカの働き方を日本は重宝したがるが、トヨタの仕組みがアメリカから逆輸入されているのだ。

山川 徹 = 文

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