にもかかわらず、黒人女性のスタートアップに対しての出資額は少ない。過去5年間で、黒人女性起業家が投資家から調達した資金は、未公開企業に対する投資総額のわずか0.2%という数字が出ている。キャスリン・フィニーは、この問題にメスをいれるべく「プロジェクト・ダイアン」を立ち上げ、一年近くかけて、テック関連で起業した黒人女性がおかれる現状について、徹底的な調査研究を行った。
アフリカン・アメリカン女性とラテンアメリカ系女性のスタートアップ支援プログラムの母体として、社会事業を運営する「Digital Undivided」の創設者、フィニーはこう述べる。「彼女たちが置かれた現状が決して良くないのは明らかでしたが、これまでそれを数値化する試みは行われていませんでした。 『この業界に黒人はいない。ましてや黒人女性なんているわけがない』と思わずにはいられない状況でした」
テック業界の黒人女性CEOはわずか4%
6万件以上のスタートアップを調査した結果、黒人女性が起業したのは全部で88社という結果が明らかになった。全米の女性起業家によるテック関連のスタートアップ全2,200社に占める割合は、わずか4%だ。また、このうち、外部から100万ドル以上の資金を調達したのは11社のみ、という現状も明らかにされた。
黒人女性によるテック関連のスタートアップがベンチャー投資で得た資金額の平均が3万6,000ドル(約400万円)だったのに対し、起業後にIPO(株式公開)もしくは事業売却に踏み切った企業が調達した資金額の平均は4,100万ドル(約46億2,000万円)という結果も出ている。白人男性のスタートアップに至っては、結果的には失敗に終わった事業ですら平均で130万ドル(約1億5,000万円)の出資を得ている。
また、同調査結果から、黒人女性が、他と比較してかなり早期の段階で機関投資に頼っていることも明らかになった。「彼女たちがシリーズAで調達しようと試みたのは、100万ドル(約1億1,300万円)です」
女性企業家を対象とする投資ファンド、「the Female Founders Fund(女性創業者ファンド)」は、シリーズAの調達額の目安を300万ドルから1,500万ドル(約3億4,000万円~17億円)としている。
「彼女たちは、新事業の着手金として必要な金額すら得ていないのです。黒人女性を率先的に支援する投資家はいません。黒人女性のビジネスのために、多額の小切手を切ってくれる人はいないのです」とフィニー氏は言う。
しかし、例外もある。ゴッサム・ギャル・ベンチャーズ(Gotham Gal Ventures)を率いるエンジェル投資家、ジョアンヌ・ウィルソン氏だ。彼女は、100万ドル以上を資金調達した前述の11人の黒人女性起業家のうち、3人の事業に投資している。フィニーによると「ウィルソンは非常に慎重に検討を重ねた上で出資の判断をしています。そして、理不尽に見過ごされてしまうチャンスというものがあることを知っています」
彼女たち黒人女性創業者は皆、素晴らしい学歴や経歴の持ち主で、修士号や、一般的なアメリカ人の6倍以上の各種認可を取得している。特にハーバード大学、コロンビア大学出身者が多いのも特徴だ。「これ以上望めないほどの学歴と人脈をもっているのに、それでも投資家の信頼を得ることが出来ないのです」
シリコンバレーの投資家が黒人女性の起業家に投資しない原因は、テック業界の人種の多様性に対する許容力、すなわちダイバーシティ―の欠如だと、フィニー氏は見ている。
資産管理額1億6,000万ドル(約180億円)以上のベンチャーキャピタル71社を対象に実施された調査によると、インベストメントチームの上級メンバーに黒人社員が占める割合は、わずか1%だ。名の知られたベンチャーキャピタルでも、投資部門の上層部に女性や有色人種が一人もいないケースが見られる。