ロックフェラー家の末裔流「海洋資源」の守り方

デービッド・ロックフェラー・Jr. (photographs by Junji Hirose)


一方、若き日のデービッドはベトナム反戦運動やボストンの反体制的なラジオ局を支援するなど、父親とは違う道を歩んだ。回顧録によると、のちに親子は和解したという。そしてデービッドは一族が守り続けてきた道を歩く。公衆衛生を世界に普及させ、WHOの創設に関わった一族による、フィランソロピー、社会変革のための慈善活動である。

数年前、ニューヨークのロックフェラーセンターを見下ろすオフィスにデービッドを訪ねたとき、私の目の前に現れたのは、着古したチノパン、リュックといういでたちのデービッドだった。頭にかぶっていたのは、アメリカズ・カップの赤いキャップ。笑顔を絶やさず、彼が語るのは家族のことであり、そして海のことだった。

私はこの日を機に、SFSに参加し、理事を引き受けた。彼は私をサンフランシスコで開催されたアメリカズ・カップに連れて行き、ここでのレセプションでも、仲間たちと海の保全へのアイデアを交わしていた。

SFSの総会のため来日したデービッドはこんな言葉でスピーチを締めくくった。

「2020年の東京オリンピックでは、世界中から訪れる人々に、安全でおいしく、環境にも優しい寿司を提供してほしい」

それが、海の恵みとともに生きてきた日本人が知るべき、親日家からのメッセージである。

David Rockefeller Jr.
1941年生まれ。ハーバード大学卒。ロックフェラー財団会長。外交政策に影響力をもつ「外交問題評議会」や「三極委員会」のメンバー。The Museum of Modern Art、The Asian Cultural Councilでも理事を務める一方、船乗りでもある。

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筆者の伊藤錬(左)は、外務省で日米関係を担当後、世界銀行に勤務。現在、メルカリ執行役員としてグローバル展開を担当している。

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世界銀行による報告書『The Sunken Billions』(2008年版。昨年、改訂版が発表された)。過去30年間の累積経済損失は2兆ドル。イタリアのGDPのほぼ同額という。漁船1隻あたりの漁獲能力は向上しているが、水産資源の枯渇から漁獲量は世界的に減少している。漁業改革は必須だが、各国の政治的思惑が絡むため、漁業の抑制は難しい。

伊藤錬 = 文 廣瀬順二 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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