ビジネス

2016.03.10

スマホ実質ゼロ円導入は正しい戦略なのか?[数字で読み解く日本経済]

Tupungato / Shutterstock.com


長期的に意図しない結果も

つまり問題は、一般的に、「月々サポート」が番号ポータビリティーを使って他社からの乗り換える(MNP)、新規契約客(番号も新規)、既存客の機種変更の順で、金額が減ることにある。しかし「取りまとめ」が言うように、新規契約や他社からの乗り換えに対して、既存の長期契約客が乗り換え客を「内部補助」していることになるのだろうか。乗り換えのインセンティブは、同じ顧客の長期的な支払から回収するビジネスモデルであり、「乗り換え客優遇」自体が、既存客から不当な内部補助を得ていると断言するわけにはいかない。

また、他社が乗り換え優遇策をとっていることが、長期契約者優遇策をとるような圧力となっている。

携帯電話大手3社以外に、いわゆる格安スマホを提供する会社(専門用語でMVNOとよばれる)が多数ある。設備を持たない分、通信速度が遅かったり、最大の通信量が制限されていたりするものの、利用料金は安く抑えられている。大手3社の料金に不満があれば、これらの格安スマホに乗り換えて毎月の通信費の負担を減らすことも可能である。

このような競争相手がいることで、大手3社の通信料金にはおのずと、抑制が働いている。むしろ、大手3社に安い料金プランを提供するように促すことは、これらの格安スマホ各社にとっては脅威になる。

このように、多くのことを考慮に入れる必要があることがわかる。料金引き下げには競争環境の維持が必要なのだが、それが固定費用の大きな産業では難しいからである。改革は十分に経済学的な検討をしないと、意図せざる結果を生む。


伊藤隆敏◎政策研究大学院大学教授、コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年~14年東京大学教授。近著に『日本財政「最後の選択」』(日本経済新聞出版社刊)。

伊藤隆敏 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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