高野 真(以下、高野): ビル・ゲイツさんは感染症の撲滅に取り組んできました。GHIT(公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金:グローバルヘルス分野の製品開発に特化した日本初の国際的な官民パートナーシップ)に支援する決め手は何でしたか?
ビル・ゲイツ(以下、ゲイツ): 日本の製薬会社は高度な専門性を持っているため、グローバルヘルスの活動に呼び込みたいと考えたからです。
新薬の開発は非常に難しい作業です。しかしGHITに参画している製薬各社には、新薬開発のための豊富なライブラリーがあり、多くの優秀な科学者が揃っています。GHITはすでに40以上の創薬プロジェクトに投資しており、その中のいくつかは大きなインパクトを与えるものと考えています。
ただし、これは製薬会社だけで完遂できるものではありません。GHITが今後、成功を続けるためには、立場の異なる三者間の連携がカギとなります。製薬会社の技術力に加えて、我々ゲイツ財団や、イギリスを本拠地とするウェルカム・トラスト(WellcomeTrust)などの慈善団体からの資金提供、さらには日本政府からの拠出が重要です。日本政府には、GHITの事例を成功と受け止めて、次の5年間もさらに前向きに参加してほしいと願っています。
高野: ここで開発した医薬品は、感染症対策にどのような効果があるのですか。
ゲイツ: 感染症に有効な医薬品は非常に限られています。HIVや結核、マラリアを予防するワクチンは、まだありません。
いま使用できる薬を見ても、結核は半年間、HIVは生涯にわたって飲み続ける必要があります。そのため多くの人が治療を継続できずに、再び感染してしまうのです。マラリアも、現状3日分必要なところを1錠で完治できるように、併用薬物療法を共同で研究しています。
こうした問題に挑戦し続けるのは、難しい中にも成功事例があるからです。ポリオは根絶に近づいています。薬が見つかれば、今、困難と見られる病気を根絶することは可能なのです。