ビジネス

2016.03.02

シリコンバレーで勝つ「一流のリーダー」の条件

仮想化ソフト大手VMwareのパット・ゲルシンガーCEO(写真=ヤン・ブース)

「シンデレラ・ストーリー」、そう本人も呼ぶキャリアを歩んできた。米東部ペンシルベニア州の酪農家に生まれ育った少年は、18歳でインテルにエンジニアとして入社後、めきめきと頭角を現し、同社史上最年少の32歳でバイスプレジデントに昇格。その後、同社初のCTO(最高技術責任者)に上り詰めた。

現在は世界第4位のソフトウェア企業、VMware(ヴイエムウェア)のCEOとして仮想化技術で攻勢を仕掛ける。インテルの伝説的経営者アンディ・グローブを師と仰ぐパット・ゲルシンガー(54)に、シリコンバレー流の「リーダー論」を聞いた。

ーシリコンバレーの変遷を30年以上にわたって見てこられました。「勝ち組」企業の経営者に共通点はあるのでしょうか?

あくまで私個人の見方ですが、テクノロジー企業のトップは技術に強くなければ、たいてい会社はうまくいきません。アップルはスティーブ・ジョブズとジョン・スカリーのどちらがよかったか。もちろんジョブズです。マイクロソフトはビル・ゲイツからスティーブ・バルマーになって失速しましたが、エンジニア出身のサティア・ナデラがCEOになり、再び勢いを取り戻しています。オラクルがずっとトップを走り続けていられるのも、ラリー・エリソン会長が技術面を引っ張っているからでしょう。

テクノロジー企業の場合、マーケティングやファイナンス部門よりもテクノロジー部門出身の人間が経営のトップを務めることが重要なのです。技術系の創業者が去ってからも会社がうまくいっているという例を、私はほとんど知りません。

ーあなた自身、技術者であり、またリーダーとしても注目されています。インテル時代、経営者のアンディ・グローブからはどんなことを学びましたか?

私はふだん、部下たちに「アイデアをデータで語れ」と話すのですが、これは私自身がアンディからよく言われたことのひとつです。何か提案するなら、必ず自分の意見を裏付けできるデータを用意しろと。数字はある意味、嘘をつきませんからね。アンディは、インテルを世界屈指のマイクロプロセッサー企業に育てた有名な経営者です。その彼から直接指導を受けるのは、局所麻酔なしで歯の治療を受けるようなものでした。

彼はとても厳しかったし、要求水準が高かった。95点の出来では決して満足しなかったのです。あるとき、アンディの前で会社の方向性を大きく変える重要な提案をしたことがあります。そのプレゼンを聞いた後、彼はこう言いました。

「まあまあの提案だな。でも、マーケティングについては何の言及もないぞ」。それを聞いて、彼の首を絞めてやりたくなりましたね(笑)。私は何ヶ月もかけて、社内の合意を取り付けたというのに。

でもこのように彼は、どうすればもっとよくなるかを常に考えていました。せっかくメンターに指導してもらうなら、褒めてくれるだけの人よりも、足りない点を厳しく指摘してくれる人のほうがありがたいでしょう。アンディがいなければ、今日の私もいないと、確信をもって言えます。
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文=増谷康

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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