マーク・ザッカーバーグはフリー・ベーシックスを「インドの貧しい人々に、無料で自由なネットへのアクセス環境を与える」ものとしていたが、ニキルはこれに反論。「フェイスブックの取り組みは、彼らがインドのネット空間の支配権を握り、自由なインターネットを脅かすものだ」と主張した。
フリー・ベーシックスは世界のインターネット普及促進を目指し、フェイスブックが立ち上げた「internet.org」プロジェクトの1つ。世界の三分の二に及ぶ人々が、ネットへのアクセスを持たない状況に変革をもたらすことをゴールとしているが、ニキルはこれに異議を唱える。
「フェイスブックのフリー・ベーシックスは本当に自由なインターネットではありません。フリー・ベーシックスでアクセス可能になるのは、フェイスブックとフェイスブックが選んだサイトのみ。さらに、その選定にあたっては、フェイスブックと一部の通信キャリアが決定権を持つ。これでは、フェイスブックがネットを支配することになります」とニキルは言う。
「一番大事なのは世界が一つにつながること。それこそがインターネットの素晴らしい点です。国ごとに分断化されたような世界はインターネットではないのです」と、彼はTEDの聴衆らに語りかけた。
登壇を終え、筆者の前に現れたニキルは小柄で丸顔の物腰の柔らかい35歳だった。ニキルとしては「特にフェイスブックを目の敵にしている訳では無い」と言う。彼は元々、インドの通信キャリアとやりあってきたが、その戦いの最中にフェイスブックが飛び込んで来たのだという。
インドでは長年、通信キャリアが政府にロビー活動を行い、ウェブサイトのオーナーから彼らが料金を請求できるように求めていた。さらに悪い事に、料金はサイトごとに変動可能とすることを求め、通信キャリアにネット企業の命運を左右する役割を与えるよう要求してきた。
また、IP電話のようなキャリアの敵となるビジネスは接続を許可しないことを求めるなど、インターネットの基本原理である「ネットの中立性」を大きく脅かす提案を行ってきた。
「インドではずっとインターネットの自由が危機的状況にありました」とニキルは言う。約1年前、通信キャリアのロビー活動は功を奏し、彼らに有利なルールが制定された。それを機に、ニキルは仲間たちと共に、インターネットの検閲に反対する抗議行動を開始した。