そこでマクルーアは、業界の常識を打ち破る戦略をとった。それは、本体ファンドの他に、小型ファンドをいくつも立ち上げるというものだ。2月23日には、インド向け投資とフィンテック向け投資を行うために2500万ドル(約28億円)規模のファンドを二つ設立したことを発表した。
インド向けファンドの名称は「500 Kulfi」。主な投資分野は、教育、ヘルスケア、SaaS、フィンテックで、年間25~50件のペースで合計150社に投資する予定だ。アメリカではスタートアップの評価額が下落しているが、500 Kulfiのファンドマネジャーに就任したPankaj Jainは、「インドは以前からスタートアップの評価額が割安なため、影響は限定的だ」と話す。Jainは2012年に500 Startupsに参画し、これまでインドで50社以上に投資してきた。「一年で5社にしか投資しないようなことにはならない」と強気の姿勢だ。
一方、フィンテック向けファンド「500 FinTech」は、100社程度への出資を予定しており、そのうち30~40%はアメリカ国外の企業になる予定だという。ファンドマネジャーのSheel Mohnotによると、主な投資分野は貸付融資、投資助言、個人財務管理、保険、送金サービス、ブロックチェーンだという。
500 Startups本体で運営しているフィンテック・アクセラレータプログラムは継続するという。「このファンドのスローガンは、”その他大勢のための金融サービス”だ」と彼はフォーブスに語り、大手銀行がこれまであまり対象にしてこなかった顧客層は高い成長性が望めるため、スタートアップにとってチャンスが大きいと話す。
500 Startupsは他にも10本ほどの小型ファンドを運営しており、年末までにその数は20本まで増えるかもしれない。マクルーアは、最終的には50~100本のファンドを設立し、半分は地域に特化し、残り半分はバーティカルな領域に特化したファンドにしたいと考えている。「我々の強みはグローバルリーチと、人員を現地に配置していることだ」と彼は言う。
小型ファンドを運営するメリットの一つは、投資担当者を早く一人前に育てることができる点だ。Mohnotはシリコンバレーのトップベンチャーキャピタルからのオファーを蹴って500 Startupsに入社した。その理由は、多くの投資案件に関わることで、勝ち組のスタートアップを支援する機会に恵まれる可能性が高まるからだという。
一部では「バラ撒き」と揶揄される投資手法
こうした500 Startupsの手法を一部の人は、「Spray and pray」(バラ撒いて、あとは神頼み)と揶揄するが、マクルーアは気に留めていない。彼は、投資したスタートアップの50~80%が短期間で失敗し、20~30%が何かしらのエグジットを果たし、5~15%が大成功をするという。
投資金額の50倍以上ものリターンをもたらすのは全体の2%程度、10倍のリターンをもたらすのは全体の5%程度しかないが、投資件数を絞れば成果はもっと少なくなるだろう。スタートアップの生存率の低さを考えれば、500 Startupsの手法は理に適っているとMohnotは話す。「我々は多くの企業に少額をつぎ込み、勝ち組を見極めてから倍賭けする」と彼は言う。
Jainは、10万ドル以上の投資については500 Startups本体と小型ファンドとで共同出資することもあり、その場合のキャリー(エグジットしたときの成功報酬)は、小型ファンドが大半を受け取るという。500 Startupsがリードインベスターになることが少ないことをスタートアップ側も承知しているため、500 Startups単独だろうと小型ファンドとの共同出資になろうと気にしないことが多いという。「いずれの場合でもスタートアップ側は500 Startupsが提供する創業者やメンターのネットワークを利用することができる」とJainは言う。
マクルーアは、本体ファンドが参加せず、小型ファンドのみの出資となったからと言って、スタートタップに対する評価に差はないと言う。東南アジアでは、地元の投資チームが100社以上の投資を行って成功をおさめており、メキシコで立ち上げたファンドは規模がかなり小さいが、非常に有望だという。
「市場を評価するのに最低でも一年以上はかかる。確度の高い投資を行うためにはしっかり精査する必要がある」とマクルーアは言う。500 Startupsが投資を行わない地域はあるかマクルーアに尋ねると、「南極はスタートアップに向かないかもしれないね」と笑顔で答えた。