シューは投資銀行のアナリストを経て、2013年2月にDeliverooを立ち上げた。そして最初の数ヶ月間は毎日約6時間、ロンドンのチェルシーエリアをスクーターで駆け回っていた。ある日、彼は銀行勤務時代の先輩にピザを届けた。
マネジャーは、配達ドライバーに“身を落とした”ように見えたシューに驚き、「君は一体何をしているんだ?」と尋ねた。配達で忙しかったシューは「ピザを配達しています。楽しいですよ」と答え、それ以上説明せずにその場を去ったという。
その後3年も経たないうちに、Deliverooのロンドン本社やヨーロッパ、アジアのオフィスの従業員は300人を超えた。契約している配達ドライバーは5,000人にのぼる。同社は2015年11月のラウンドでロシア人投資家ユリ・ミルナー率いるDST GlobalやAccel Partners、Index Venturesから2億ドル(約226億円)近くを調達した。企業価値は6億ドル(約678億円)を超える。
レストランはDeliverooに配達をアウトソーシングすることで、新たな収入源を獲得できる。Deliverooはレストランから業務委託費を、アプリで注文する顧客からは2.5ポンドの手数料を受け取り、収益としている。この3年間、売り上げは月に20~25%のペースで伸びており、事業範囲はヨーロッパとアジアの60都市に広がった。シューは米国への進出も視野に入れる。
公表資料によるとDeliverooは2014年に140万ポンド(約2億2,000万円)の損失を計上した。事業の急拡大に資源が追い付いていないためで、Deliverooはウーバーと同じ速度で収益性を高めているとの声もある。ウーバーは80都市で黒字化しており、1都市で黒字化するためには平均2年ほど要している。
シューはDeliverooには大きなポテンシャルがあると自信を見せる。直近ラウンドで調達した資金は、ドバイ、香港、シンガポール、シドニーでのオフィス開設と、彼が“Roomen”と呼ぶ配達ドライバーの確保に投じる。
ある投資家は、Deliverooの急成長の秘密は物流面での強さにあると指摘する。シューは物流に携わったことがないが、起業当初に自身で配達ドライバーをやった経験が役立っているという。
Deliverooは配送網の効率化に向け微調整を怠らない。データサイエンティストのチームは地理を理解するために自社のソフトウエアでシミュレーションを行い、配達を依頼するドライバーを決定するアルゴリズムの検証を繰り返している。データサイエンティストたちは配達のプロセスを顧客との交流、レストランへの移動、食べ物の受け取り、レストランに入るためのコード入力など複数のステップに分解し、より効率的な方法を追求する。
Deliverooでは衛星コンステレーションの管理経験があるエンジニアや、FedExとUPSで倉庫の生産効率の最大化に取り組んだ従業員も活躍している。
シューは「配達ドライバーの到着時間をレストランに正確に伝えられるのが理想だ。ナポリピッツァは料理するのに90秒、ステーキは10分かかる。食べ物が熱々の状態の時にドライバーが到着するにはどうすればいいのか。私たちはあらゆる場所で数えきれないほどテストしている」と語った。