アップルは、昨年12月にカリフォルニア州サンバーナディーノで発生した銃乱射事件(14人が死亡、負傷者14人)の容疑者が所持していたiPhoneのロックを解除するよう、連邦地裁より命じられており、FBIの要請はこれを受けてのものだ。
iPhoneには、パスコード入力を10回間違えるとデータが消去される機能が備わっている。裁判所は1789年の「All Writs Act」(全令状法)に基づき、アップルにこの機能を解除してパスコードを割り出すための「ブルートフォース・アタック」(総当たり攻撃)を可能にする措置をとるよう命じている。パスコードが解除されれば、暗号化されたデータの大半は解読できることになる。
クックが懸念しているのは、FBIが1台の端末に侵入するために、あらゆる端末をハッキングできるツールを作るようアップルに要請していることだ。アップルには結論を出すための期間として5日間の猶予が与えられていたが、クックは「この命令は、政府が守るべき自由を脅かすことになる」として拒否する意向を明らかにした。
クックは「政府の意図は善良なものであると信じており、銃乱射事件の捜査には別の形で強力をしてきた」としながら、「政府に要請されているツールが悪人の手に渡ってしまったり、政府による市民の監視に使われることを一番恐れている」と述べている。
クックは書簡の中で次のようにも述べている。
「政府の要請が及ぼす影響は恐ろしいものだ。政府がAll Writs Actを根拠にiPhoneをアンロックできるようにすれば、あらゆる端末のデータにアクセスできるようになってしまう」
「今回の要請に応じた場合、将来的に政府はメッセージの傍受や、健康や銀行口座のデータの取得、所在地の確認、端末のマイクやカメラへのアクセスなどを要求してくるようになるかもしれない」
「政府の要請を軽んじるべきではないが、政府の行き過ぎた行為に対しては異論を唱える必要があると考えている」
「我々はアメリカの民主主義を最大限尊重し、愛国心をもった上でFBIの要請に異議を申し立てている。政府の要請がもたらすインパクトを冷静に考えてみることが人々にとって最良の結果をもたらすと確信している」
「政府がわれわれの製品にバックドアを作ることを強制することは間違いだ」
これまで米政府はテクノロジー企業に対し、暗号化された通信内容を解読するためのバックドアを作るよう繰り返し要請してきたが、アップルは拒み続けてきた。「この世に善人専用の裏口は無い」とクックは昨年11月に述べ、多くのセキュリティ専門家がこの考えに賛同している。
その一人であるコンピュータ・セキュリティ・リサーチャーのニコラス・ウィーバーは次のようにツイートしている。「悪い先例を作ることは絶対に避けるべきだ」