アマゾンは昨年11月、シアトルに同社初のリアル書店をオープン。世界最大のオンライン小売業者として、各地の書店を廃業に追い込んできた当事者であるアマゾンのこの動きは世間を困惑させた。
なぜ今さらリアル書店なのか? 筆者は第一号店の開店当時、「実店舗はデータを活用したビジネスモデルを実演するショールームなのではないか」という仮説を立てた。その理由は次の通りである。
アマゾンのリアル書店では、各商品に添えられたプラカードに価格表示がなく、来店客が値段を知るにはアマゾン公式アプリがインストールされたスマホでカードをスキャンしなければならない。店は来店客のアマゾンアカウントの個人情報をもとに、その人に最適化されたサービスを提供し、購買意欲を促す。
将来的には、個人ごとに最適化された価格を提示することも考えられる。そして、このような販売モデルこそが、リアル書店の「商品」なのではないか? リアル書店の本当の「客」は、本を買いに来る人々ではなく、同社に大きな利益をもたらしているクラウドサービス「Amazon Webサービス (AWS)」を使う小売企業なのではないか?
そこへ飛び込んできた今回のニュース。リアル店舗が“ショールーム”であるならば、数百店もの規模で展開する必要はないはずである。まさか、モールに来る人々に本を買わせたい?
確かにアマゾンなら、データを活用して他社が経営する書店よりも効率良く本を売ることができるだろう。しかし、消費者から見れば、品揃えが豊富で、注文品が当日か翌日には届く同社のオンラインショップのほうが魅力的だ。リアル店舗運営にかかる人件費や場所代、物流コストに見合うほどの利益が本の売上から得られるとは思えない。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、考えられる可能性のひとつとして、リアル店舗が返品窓口になることを挙げている。GGPのマスラニによると、ネットショップで購入されるグッズ(衣料品や化粧品などの消耗品)の返品の約38%が実店舗に持ち込まれているという。しかし、既にアマゾンは返品にも対応する「アマゾン・ロッカー」のサービスを都市部で始めており、返品対策としてはこちらのほうが実店舗よりも効率が良さそうだ。
謎はますます深まるばかりである。アマゾンは先月末、2015年10〜12月の決算を発表。前年同期比で増収増益だったものの、市場予測を下回ったため、株価が値下がりした。とはいえ野心的で、何をやり出すか分からないアマゾンのことだ。きっと新たな動きを探っていることだけは確実と言えるだろう。