テクノロジー

2016.02.15 10:01

現代のクルマ好きが考える「近未来のクルマ」

Mercedes-Benz F 015 Luxuly in Motion。 将来の自動運転を具現化した、メルセデ ス・ベンツのリサーチカー。2015年1月の 世界最大の家電見本市「CES2015」で お披露目された自律走行車。

Forbesさんから「近未来のクルマ」というテーマの総論を、と依頼いただいた時は正直むずかしいテーマに取り組まれるのだなぁと感じつつも他の執筆陣がどんな未来を描かれるのか楽しみになり、本誌が読者の方々の手に取られるころには、僕もワクワクしながら読んでいることでしょう。

しかし「IoT」や「メイカーズ」といったキーワードから、いままさに進んでいるEV化や自動運転、カーシェアリングetc.に一家言あると思っていただいてのご指名だと思うのですが、このテーマは僕には難しすぎる。

なぜかって? えぇ、単純に現代のクルマが好きだからなのです。

現代のクルマは生活においても楽しみにおいても広く受け入れられ必需品として存在します。近未来のクルマを考えるというのは現状からの連続性の中にある進化ではなく、不連続な思考の中からイノベーションを起こすべきなのでしょう。

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アメリカのサイラス・マコーミックが1831年に作った穀物の自動刈り取り機は、重労働の手作業から農民を解放した。しかし、高額なためなかなか売れなかった。

イノベーションといえば、教科書的によく出てくる話としてサイラス・マコーミックの話があります。彼は農業の機械化(=近未来の農業)が望まれていた1800年代に収穫機を発明していますが、最大のイノベーションは「割賦販売」という営業と金融サービスの組み合わせでした。これによって効率は上げたいのだけど現金はない農民たちに「近未来の農業」を手に入れるきっかけを与えました(他にも保証書や定価制度、パンプレットなど現在の販売活動のあたりまえとなった方法を数多く発明しています)。

前置きが長くなりました。僕らには来るべき未来の数ピースは見えてはいるのにはっきりとした姿を捉えてこなかったはずなので、少し一緒に空想してみましょうか。

僕の空想はこんな感じです。「デザインは時代時代に合った変化を起こすだけだろう、自動運転によって駐車場は減り、ラストワンマイルや近隣への移動にはパーソナルモビリティが溢れ、タクシーはビジネスモデルを転換していき、シェアリングエコノミーの波に乗ってカーシェアによる所有から利用の流れが起こり、未乗車時間に配送インフラの一部になることで宅配時間は短くなり続け、AEDや救急グッズが積まれ救急車を10分も待たなくてよくなり、燃費・電費の良さや快適な移動居住空間と運転の楽しさを喧伝する大手自動車メーカーさんたちがマス・カスタマイゼーションによるカスタマイズやIoTを活用したサービスを競い合う」


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一人乗りの超小型3輪EV 「TOYOTAi-ROAD」。クルマとバイクの両方のポテンシャルをあわせもつ都市型モビリティだ。すでに公道での実証実験がスタートしている。

そうか、サービス化が極端に進むのか。きっと、近未来のクルマは僕が誰とどこに行きたくて、その移動の間になにを飲みたくて、どんな情報やコンテンツが欲しいのかを知ってるぐらいサービス精神旺盛なモビリティになっているはずだ。「彼女とイオンに」なんてクルマに毎回言いたくない人も多いはずですよね。

最後に空想の近未来で起こるであろう少しネガティブな問題も。

クルマがサービス化していくことで、必要なデータがセンシティブなものになっていき、通信がOTA(OverTheAir)化していくことで、セキュリティに関しても話題になるのだろう。

メッセージ・アプリを使っていた人の不幸や犯罪のニュースに「LINE」と名指しされる程度には、急成長したサービス・カーが叩かれることもあるかもしれない。

そもそもクルマの「セーフティ」といわゆるシステムの「セキュリティ」は両立が難しい。当たり前だが、セキュリティにはコンピューティング・パワーを使う。これはほんの僅かかもしれないがセーフティに影響のある遅延に繋がるだろう。

それでも、この流れはもう止まらないでしょう。止まらない流れなら自ら乗った方が良いし、乗るよりも自分で道をつくる方がたのしい気がしてきました。

さて、僕は空想で終わらせないために明日にでもDMM.makeAKIBAに顔出して入居者さんたちと近未来のクルマに必要なサービスやプロダクトのブレストでもしてみようかな。

みなさんの空想の中にはどんな「近未来のクルマ」が走っていたでしょうか?


小笠原治◎1971年生まれ/ABBALab、nomad代表取締役98年より、さくらインターネットの共同ファウンダーを経て、ネット系事業会社の代表を歴任。2011年、nomadを設立しスタートアップ支援事業を軸に活動。それ以後もABBALabやDMM.makeAKIBAを設立するなど幅広く活躍している。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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