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2016.02.23 10:01

アップルに代表される「アジルカンパニー」とは?

フォーブスジャパン2月号より

フォーブスジャパン2月号より

CEOがすすめる一冊 by 酒巻 久 キヤノン電子代表取締役社長

これまでに数え切れないほどの本を読んできました。社長室には、天井から床まで壁一面に本棚を設けており、そこにも並べきれないほどの本が、所狭しと置かれています。そのたくさんの本にはひとつの共通点があります。それは、「自分の考えや経験を裏付けしてくれる本」だということ。

今回取り上げた『アジルコンペティション』はその代表格で、私の経営のバイブルと言っていい一冊です。ご存じの通り、ここ数十年で多くのものがアナログからデジタルへと変化し、製品開発や経営活動にも、「スピード」が求められるようになりました。

本書のテーマである「アジル・カンパニー」とは、米国で生まれた経営コンセプトで、企業には「急激な変化に満ちた今日の経営環境に適した、俊敏さ・機敏さ」が、新しい資質として求められているとされています。

ここで私の経験をひとつご紹介します。キヤノンに勤務していた1990年代の初めころ、ある米国企業のPC開発に協力した時のことです。つくろうとしていたのは、現在のタブレット型PCそのものでした。

そのアイデアを聞いた米アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、「やめた方がいい」と話し、「時代が早すぎる」からだと、その理由を続けました。

確かに、当時の部品では処理能力が遅く、しかも高価。消費者も多機能に不慣れで、使いこなすことはできなかったでしょう。

十数年後、それらの問題を解決し、満を持して発売されたiPadが大ヒットしたことは周知の事実。しかも今なおアップルの製品は、世界中から求められ続けています。

アジル・カンパニーとは、「経営環境に適した、俊敏さ・機敏さ」だけでなく、「顧客を豊かにする製品・サービスを送り出せる組織」です。

ジョブズが送ってくれた発売前のiPhoneを手にした時、「人にとって優しい製品」であることはすぐにわかりました。同時にアップルのように適度なスピードでよい製品を生み出し、顧客と息の長い関係を育める企業こそが、アジル・カンパニーなのだと再確認したのです。

実在する企業の成功した手法がちりばめられている本書は、ビジネスパーソンのこれからの挑戦をきっと助けてくれるでしょう。

アナログ時代は、企業の総合力や資本力で競争に勝つことができました。しかし、デジタル時代に必要なのは、「機動力」です。一年の遅れは致命傷となり、取り戻すことはできません。

ただその半面、デジタルだからこそ、誰もが何でもつくり出せる時代です。常に新しいものに目を向けながら、過去の成功例や失敗例を学び、「先を読む力」を手に入れましょう。

title : アジルコンペティション
author : S・L・ゴールドマン、R・N・ネーゲル、K・プライス
data : 日本経済新聞社1,942円円+税/474ページ

さかまき・ひさし◎1940年、栃木県生まれ。67年、キヤノンに入社。96年、常務取締役生産本部長。99年、キヤノン電子社長に就任し、赤字すれすれの会社を環境経営の徹底により6年で売上高経常利益率10%超の高収益企業へと成長させた手腕で注目される。

構成=内田まさみ

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