ビジネス

2016.02.18 12:31

前職はプロゴルファー、オーデマ ピゲCEOの華麗なる転身

オーデマ・ピゲのフランソワ-アンリ・ベナミアスCEO / photograph by Junji Hirose

プロゴルファーとして“世界一”を目指した経験を生かし、ラグジュアリーブランドとしての“てっぺん”を夢想する異色のCEO。

「何百万人をターゲットにしようと思う必要はない。何千人単位の人々に届けることを考えるんです」若い世代に対して、どんな戦略が必要なのか?と尋ねてみたときのこと。ベナミアスCEOの口からはそんな言葉が発せられた。曰く「オーデマ ピゲの顧客は、とても成熟している」。自分は何が欲しいのかを分かっていて、思いに迷いがない人々だ。

だからこそ、ブランドのアイデンティティーともいえる「存在の特別さ」に集中する。それが一番の“戦略”になると考える。

オーデマ ピゲの年間生産本数は約4万本。唯一無二のデザインを目指し、トレンドはつくり出しても、トレンドは追わない。生産本数は変えずに、販売ルートを絞る。そんなこだわりを徹底していたら、高級時計業界全体が苦戦するなか、世界売上高は前年比15%もアップしたという。

「顧客と長く付き合えるよう常に向上しつつ、現在の何十倍もいると考えられる潜在的な顧客を取り込めれば。高級時計業界の未来は、明るいとさえ思っているよ」

どんなときもポジティブに前だけを見据えるベナミアスは、じつは元プロゴルファーという稀有なキャリアの持ち主。「世界一のゴルファーになりたかったけれど、叶わなかったから」と笑う。ずっと惹かれていた、ラグジュアリーの世界に飛び込むことを決めたのだとか。

ゴルファーとしての経験が今の仕事に生きている、と感じることはあるのだろうか。そう尋ねると、「いつも感じている」という真っすぐな答えが返ってきた。「基礎を大切にすることもその一つ。どんなときも基本に立ち返り、そこから発展させる。バレエダンサーが毎日バーレッスンをするのと同じですね。スポーツとビジネスは、とても近いとさえ感じています」。


フランソワ-アンリ・ベナミアス◎1964年、パリ生まれ。プロゴルファーとして活躍した後、ファッション業界へ。94年、オーデマ・ピゲのフランス支社に入社。北米社長兼CEOなどを経て、2013年に本社CEOに就任。

文=古谷ゆう子

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事