これら2モデルを製造していたミシガン州スターリングハイツとイリノイ州ベルベディアにある工場では今後、ジープのSUVやピックアップトラックの「ラム」、クロスオーバー車の生産台数を増加させる。こうした変更は、FCAの短期的な財務面ではまさに理にかなったものといえる。「200」と「ダート」の現行モデルは一つ前のモデルより好調だが、いずれも中型車とコンパクトカーの売り上げでは、国内トップクラスには食い込んでいない。
小型・中型車の生産継続に向けて合併相手を探していた同社だが、今後の方針を転換したことは明らかだ。
将来の変化に備え──自動運転車の開発に注力か
中期計画の変更は、FCAの短~中期の利益性を押し上げることになるだろう。だが、これらは同時に、移動手段(自動車)の市場が変化する中で、同社の長期計画にも変化が起きていることを示している。FCAはこれまで、自動運転車を公表したことも、関連技術について発言したこともない。しかし、ほぼすべてのモデルに定速走行・車間距離制御装置(ACC)やアクティブパークアシスト、車線維持補助装置(LDW)などの先進運転支援システム(ADAS)を導入している。
自動車市場は向こう数十年に大幅な変化を遂げ、都市部を中心に、個人による自動車の所有台数は減少するとみられている。自動運転車はまず、ひどい渋滞と大気汚染に悩まされる都市中心部に導入されることになるだろう。人間が運転する車の中心部への進入は禁止され、周辺地域にこうした車の駐車スペースが設けられた上で、中心部は自動運転車のみが走行を認められるようになる可能性がある。そうすることで、自動運転車と人間が運転する車の事故を回避できると考えられているためだ。配車サービスのウーバーと、戦略的提携を決めたゼネラル・モーターズ(GM)とリフトが描く自動運転車ネットワークの構築が実現するかもしれない。
こうした展望の下で最も有望視されているのは、グーグルが開発中のポッド型の自動運転車や、メルセデス・ベンツが発表した自律走行車のコンセプトモデル、「メルセデスF015」だ。クライスラーのプラグインハイブリッド車(PHV)の「パシフィカ」とフィアット「500」の新モデルも、これらと同じ方向を目指していくことになるだろう。今年末までにはそれぞれ、新モデルが発売される予定だ。
改訂後の中期計画によれば、FCAは燃費性能に関する目標を達成できる見通しだが、低水準が続く原油価格とトラックとSUVの人気上昇が続けば、FCAの全モデル平均の燃費性能は容易に基準を下回ることになるだろう。そして、電気自動車の販売が順調にならない限り、基準の達成は難しくなる。
昨年計画した有力メーカーとの合併に完全に失敗したFCAのセルジオ・マルキオンネCEOは今、自社の強みを生かして将来に向かおうと、完全な方向転換を目指している。