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Sergey Nivens / shutterstock

研究者になって初めて“勝ち組”だ—。世界でも有数の大学院の博士課程で学ぶとき、そう言われるものです。一流の教育機関で研究者になって、後進の指導に当たる。つまり、大学に生涯を捧げるように求められるのです。

この考え方は、まちがっていると思います。ただ、まだ若かった頃の私にはそれがわかりませんでした。そして、私にとっての「最高の失敗」とは、それに従ってしまったことです。

だから、当たり前のように研究の道に進もうと考えていました。実際、私はスタンフォード大学を卒業後、同大学のフーバー研究所で研究職につき、学生を指導するようにもなりました。すると、いつの間にか引きこもるようになってしまいます。調べ物をして、そこで得た知識を学生に伝えるだけ。それも、自分と年齢がほとんど変わらない学生、あるいは年上の学生に対してです。

私は社会経験もなければ、実績もなく、世の中を知りませんでした。それなのに、学生たちの保護者は、言ってみれば、現実世界でほとんど実績のない私に教わるためにスタンフォード大学に年間3万ドル(約360万円)も払っていたのです。

だからこそ、「リアルな知識」を得ることの大切さがわかりました。

講義やコースを終えると、世界で実際に起きていることをニュースなどで知ることになります。教室で教えていることは本当に起きていて、人々の生活につながっているのです。

例えば、スーダン西部で起きたダルフール紛争があります。でも、現地に行ってもいなければ、体験したこともないので、説明のしようがありません。先進国首脳会談のハイレベル交渉だって、参加したことがなければ説明できません。それが核兵器拡散であろうと、民族紛争であろうと。加えて、分析したところで、それが合っていようがまちがっていようが、責任を取らされることはありません。

博士課程に在籍する学生は、リスクを避けることを覚えます。いつだって、正確でなくてはいけないからです。そして、正確であるための唯一の方法がまちがえないことなのです。

そうしたこともあり、彼らの多くは予測を求められると上手に逃げます。なるべく答えたくはないのです。その誤りの責任を負わされたくはありませんから。

しかし、ビジネスパーソンにそんな贅沢はできません。スピーチならいざ知らず、決断を下さなくてはいけない場合は逃げることなど不可能です。そして、実社会は決断の連続です。

その点、研究者は決断する必要がありません。それでも、人に決断の下し方を教えるときは、その方法を知っていなくてはいけませんよね。それに、国際政治を理解したいのなら、現実の世の中で活動している人からの方が教わることが多いものです。経験の有無が、差を生みますから。

そこで1998年、当時28歳だった私は大学を離れ、政治リスク専門のコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」を立ち上げることにしました。政策に関わる人で、民間のセクターで働いた経験を持つ人はそう多くはいません。

でも、今は私もその一人だと思いたいですね。



IAN BREMMER イアン・ブレマー◎政治リスク専門のコンサルティング企業「ユーラシア・グループ」代表。スタンフォード大学で博士号を取得したのち、同大学のフーバー研究所等を経て現職。著書に『「Gゼロ」後の世界  主導国なき時代の勝者はだれか』(日本経済新聞出版社刊)など。

文 = イアン・ブレマー

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