ビジネス

2016.02.28

日本人が標的にされるテロの実態

Photographee.eu / Shutterstock

国際テロ組織のテロ活動には資金獲得のためのPR事業という側面がある。助かる可能性が低いテロから海外赴任の社員を守るために、日本企業は何をすべきか。

日本人を標的とするテロの脅威への対策について、防衛省分析官は「誰も、あなたを助け出せない」と、意外な言葉を呟いた。

イスラム国(ISIL)をはじめとする国際テロ組織は、2015年エジプトでのロシア旅客機撃墜、11月にはパリで同時多発テロを起こした。世界中でテロの脅威がこれまでになく高まっているのは、事実だろう。

しかし、真のテロの脅威は、これらの現象面だけからは見えてこない。国際テロ組織によるテロは、企業における事業と同じように「成果を上げれば資金を呼び込み、組織や活動を拡大できるもの」(前出)だからだ。国際テロ組織によるテロは、彼らの思想信条を具現化するためだけではなく、資金獲得のためのPR事業という側面があるのだ。

このような視点でテロを見れば、日本人への具体的な脅威が見えてくる。1976年以降、国際テロによる日本人の被害は、爆弾テロや襲撃による死傷者176人、誘拐や人質の被害者72人に上る。一見すると、爆弾テロや襲撃による死傷者が圧倒的に多いが、これは欧米権益へのテロの犠牲になった「巻き込まれ型」の被害だ。

つまり、日本人を標的とするテロのほとんどは誘拐という形で行われている。01年のニューヨーク同時多発テロ以前は、誘拐後に殺害された日本人の割合は、わずかに4%だった。しかしそれが、同時多発テロ以降は6割を超え、ISILが台頭した13年以降に限れば、全員が殺害されるに至っている。

「日本人が海外で最も警戒しなければならないテロは誘拐」(前出)。冒頭の言葉は、国際テロ組織に誘拐されれば誰も助からないし、政府でさえも助け出すことができないという実態を表しているのだ。

日本人への具体的な脅威が誘拐だとすれば、企業が意識を変えていくことによって、海外に赴任する社員や家族の安全を確保することができるだろう。「セキュリティについて、欧米企業と日本企業では根本的な認識の違いがある」(前出)との指摘の通り、欧米企業では、軍や情報機関のOBを雇い入れて、テロ組織による内通者の送り込みや盗聴などの情報収集に対して、カウンターインテリジェンス活動を行っていることが多い。テロの脅威に切迫している欧米企業は、テロ組織がテロを躊躇するようなハードターゲットになるべく、国家機関並みの活動を行っているのだ。

日本人がテロの被害に遭うと声高に「自己責任」が叫ばれるが、企業における責任とは、このようにハードターゲットになるべく、具体的な方策をとっていくことではないだろうか。


誘拐被害
外務省資料によると、誘拐テロ組織は(1)誘拐の目的(身代金等)が達成できる、(2)接近が容易、(3)特定の時間、場所にいることが予測可能、(4)防御態勢が弱い者を対象にするという。

山野一十 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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