日本のジョブズ生む「IT寺子屋」

大人も子供も一緒になって、作りたいものを好きな方法で作る。作っているうちに、自然とプログラミングの考え方や、論理的な思考が身についていく。(photograph by Akina Okada)

グローバル社会で必須能力とされるプログラミング。押し付けではなく、自然と身につける方法とは?

未来の国際競争力の担い手となる、子供向けのプログラミング教育に注目が集まっている。政府は2020年までに世界最高水準のIT活用社会を実現することを目的とした「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定し、すでに中学校の技術家庭科ではプログラミングが必修となった。しかし、たとえ「就職に有利」と親から勉強を押し付けられても、興味がなければ子供たちは途中で投げ出してしまうだろう。

東京都内で開催されている、子供たちにプログラミング体験を提供するボランティア活動「OtOMO」のワークショップでは、子供が自ら進んでプログラミングを学ぶという。

ワークショップをのぞくと、子供たちが何やら熱心に、ノートパソコンの画面の中で、ブロックを組み合わせて、ネコのキャラクターを操作している。使っているのは「Scratch(スクラッチ)」というビジュアルプログラミング言語だ。MITメディアラボが開発したこの言語は、様々な処理を示すブロックの組み合わせでプログラムを記述する。

今回集まったのは、小学校3年生から中学校3年生までの子供たち約10人。この日は特にテーマを設けない「寺子屋形式」での実施だ。はじめに子供たちが「ゲームを完成させる」「素数を表示する」など、今日作るものを発表。その後、思い思いにプログラミングをはじめた。この場での大人は「指導」ではなく「示唆」する役割だ。子供たちに声をかけ、アドバイスし、質問に答える。

「もの作りを通して、ものを作る楽しさを知る。その結果、作るために何が必要なのか、子供たち自身に考えてもらうことが我々の活動の目的です」と、運営に携わる青山学院大学社会情報学部客員教授の阿部和広氏は話す。

プログラミング教育においては「プログラミングのために論理的思考を身につけよう」ということが多いが、はじめから論理立ててものを作ることは難しい。論理的思考は自分の手で何かを作ろうと失敗を繰り返すうちに身につく。だからOtOMOは、積極的に間違えることを勧める。動かないプログラムを、なぜ動かないのか考え、直すことが一番の勉強だ。「作ることを学ぶ」のではなく、「作ることで学ぶ」のだ。

また、プログラミングをする際は、他人のプログラムも利用しながら作ることが多い。そこで、先人の作品を尊重し、感謝の気持ちをもつことも、作ることを通じて子供たちは学ぶ。

この日初参加した兄弟は、1時間ほどで簡単なゲームを作り上げた。緊張した表情が、製作が進むにつれてやわらぐ。穴埋め問題やパズルではなく、自分でゼロから1を作り上げる喜びを提供することこそ、プログラミング教育の第一歩なのである。

文 = 鹿野恵子

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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