経済・社会

2016.02.24 10:31

イギリスに学ぶ、犯罪を減らすまちづくり

Viktoria Kurpas / Shutterstock

これまで日本がとっていた犯罪抑止策では十分な成果を挙げられていないとして英国での成功事例に基づいて「犯罪を起こしにくい監視性の高い街」をつくる試み。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2013年調査によれば、世界では年間2,019万件の窃盗事件が発生し、誘拐も約8万7,000件発生している。どの国でも対策に頭を悩ませる中、03年から13年までの10年間で窃盗を約100万件減らして半減させ、誘拐も3,125件から1,727件へと激減させたのがイギリスだ。その背景にあるのが「犯罪機会論」による対策である。

これまで、犯罪抑止には「犯罪原因論」を基に探究が続けられてきた。犯罪者がなぜ罪を犯すに至ったかを心理学や教育学などの立場からアプローチする。しかし解明は不十分で再犯も多い。

「そこで注目されたのが犯罪機会論です。犯罪者ではなく犯罪が起きた場所に焦点を当て、犯罪者が『ここでならばできる』と考える現場の雰囲気をあぶり出します」と説明するのは、立正大学文学部社会学科教授の小宮信夫だ。

1997年にイギリス首相に就任したトニー・ブレアが最初に成立させた法律「犯罪及び秩序違反法」は犯罪機会論によるものだった。あらゆる都市計画に犯罪が起きないような配慮を盛り込むことを義務づけた。例えば、「犯罪者が嫌がる公園づくり」。公園に子供専用のゾーンをつくり、囲いもつくる。そうすれば専用ゾーンに近づく不審者はすぐに分かる。また団地を建てる際には、建物の囲みの中に庭をつくり、その庭を常に誰かが見ているような部屋の間取りにする。

「犯罪機会論は、人が入りやすい場所か入りにくい場所か、また周囲から見えやすい場所か見えにくい場所かという領域性と監視性を軸に考えます。英国ではそのふたつの側面から都市計画が考えられるようになり、その成果が出ているのです」

それに比べれば、例えば日本の団地内公園は、窓のない壁側に設けられるケースが多い。つまり入りやすく人目につかない場所が多いのだ。犯罪が起きるのは、自転車やゴミが放置されたままだったり、周囲の家からの死角が多く、さらに空き家の窓ガラスが割れたままのような場所が多い。

「そういう場所では、犯罪者は犯罪を起こしやすいと考えます。逆に、地域が連帯しているようなエリアでは、悪の芽は摘み取られています」

小宮は犯罪機会論を基にして「地域安全マップづくり」を考案した。小中学生らが街を歩き、自転車やゴミが放置されたままのエリア、死角のある場所などを調べて地図をつくる。現在、埼玉県警などが取り組んでいる。また神奈川県海老名市では、防犯カメラを犯罪機会論で導かれた場所に設置する試みが始まっている。

「犯罪者が、『顔が写ってしまう』と自覚する場所を選び、周辺へと拡大します。見られていると分かって犯罪に踏み出す者はいません」

文=船木春仁

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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