テクノロジー

2016.02.22 11:00

ゲリラ豪雨を避ける技術

photograph by Stephen Webster

ゲリラ豪雨の原因は、急速に発達する積乱雲だ。これを素早く、正確に捉えられれば、豪雨被害は減らせるかもしれない。

2015年9月、茨城県常総市を襲った台風18号で、鬼怒川の堤防が決壊。1万棟以上が浸水被害に遭い、多くの住民が避難生活を強いられた。温帯低気圧に変わった台風18号に台風17号がぶつかり、大量の積乱雲が発生。これが記録的な集中豪雨の原因となった。

近年、国内では異常気象による被害が相次いでいる。気象庁は、異常気象を「30年に1回程度しか起こらないような、平年状態から大幅にずれた天候」と定義している。ところが、ここ最近は「数十年に一度」のはずの豪雨が、1年の間に何度も起こっている。その背景に地球温暖化があることは、気象学研究者の共通認識となっている。原因が地球温暖化だとすれば、今後も被害は増え続けるだろう。

異常気象にまつわる問題は、異常な豪雨や台風などがもたらす雨量が、従来のインフラの設定基準値を越えることによって起こる。雨量が基準をオーバーし、堤防が決壊したり、地下街が水没したりするのだ。

今のところ、異常気象そのものを防ぐ手立てはない。では、予測はできないのか。残念ながら、現状の気象庁のレーダーによる観測間隔は、5分から10分に一度。これではわずか10分程度で急速に発達する積乱雲の動きに追いつかない。

こうした状況を改善するため、大阪大学の牛尾知雄准教授は、ゲリラ豪雨や竜巻などを最短10秒間隔で確実に観測する、世界最高レベルの性能を持つフェーズドアレイ気象レーダを開発した。

「このレーダーを使えば、積乱雲の発生をほぼ瞬時に捉え、その後の発達状況もリアルタイムにつかめるので、猛烈な雨が降り出す前に警報を出せるようになります。そうすれば、あらかじめ安全な場所に避難したり、災害を防ぐ手を打ったりできるようになるでしょう」(牛尾氏)

従来の気象アンテナは、巨大なパラボラアンテナを少しずつ動かして観測する。だから同じ場所に戻ってくるまでに、数分かかっていた。これに対してフェーズドアレイ気象レーダは「128本もの小さなアンテナをそれぞれ精密にコントロールすることで、半径約15kmから最大60km、高度15kmまでの範囲において、隙間なく、詳細な3次元降水分布を、10秒から30秒間隔で観測可能となりました」(牛尾氏)。

このフェーズドアレイ気象レーダは現在、大阪府内で2基稼働しており、観測データを地元自治体と共有して実証実験が行われている。さらに現在、東芝、独立行政法人情報通信研究機構と共同で、より高精度な雨量測定が可能となるレーダーの開発が進んでいる。異常気象が続く日本の心強い見張り番になりそうだ。

編集 = 大木戸歩

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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