テクノロジー

2016.02.15 12:31

ビルや電車が「発電所」になる日

宮坂力 桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授 / photograph by Akina Okada

宮坂力 桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授 / photograph by Akina Okada

太陽光発電に新星が登場した。実用化すれば、“発電所”を印刷できるようになるかもしれない。

オフィスビルの窓で発電できる日が来るかもしれない。ふだん、わたしたちがメガソーラーや住宅用のソーラーパネルで目にするのは、「シリコン太陽電池」と言われるものだ。すでに一般に普及しているが、導入コストが高額なことに加えて、設置できる場所が制限されるのが難点だった。そこで今、注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池だ。

ペロブスカイト太陽電池の研究は、2006年に始まった。クリーンエネルギーを研究している桐蔭横浜大学の宮坂力教授の研究室に、若い研究者がたずねてきたのがきっかけだ。「光に反応して発光する材料、ペロブスカイトを発電に応用できないか」。このアイデアが今、世界で注目を集めており、実用化に向けた研究が着々と進んでいる。

ペロブスカイトは、特殊な結晶構造を持つ物質で、現在、主流となっているシリコン太陽電池に比べて安価に太陽電池をつくれるのが魅力だ。1平方メートル当たりにかかる材料費は150円程度。宮坂教授は「シリコン太陽電池にかかるコストの10 分の1 以下と、圧倒的に低コストです」と話す。

ただ、「ペロブスカイトは、シリコン太陽電池に取って代わるものではない」と、宮坂教授は言う。シリコンとペロブスカイトはそれぞれ違う強みがあるため、それを活かしてすみ分ける考えだ。

ペロブスカイトの特徴は、印刷物を印刷するように太陽電池をつくれることにある。光の波長をほぼ自在にチューニングできるので、さまざまな色の太陽電池をつくることが可能だ。たとえばオフィスビルや電車の窓、車などに塗布すれば、そこで発電できるようになる。そのためオフィスの待機電力を発電する用途や、電気自動車のようなバッテリーカーなどへの応用が期待されている。

また、低温の状態で製造できるため、プラスチックのように高温に弱い基盤の上に塗布できるのも強み。従来のシリコン太陽電池とは違った分野で活用できる。

一方で、実用化に向けたハードルとなるのが、太陽光エネルギーから電力へと変換する際のエネルギー変換効率(発電効率)だ。これは年々、改善しており、シリコン太陽電池の25%程度に近づいている。東京大学のチームは15 年に21%台を記録、今後の研究開発に弾みがついたかたちだ。こうしたなかで大手電気メーカーも共同開発に名乗りを上げており、製品開発が進んでいる。

残る課題は安定性だ。安定性や耐久性は、シリコン製の強み。だがこの問題も、「1年以内には解消する見通し」と、宮坂教授は話す。原発事故や地球温暖化でクリーンエネルギーに注目が集まる中、新たな技術に期待がかかる。


みやさか・つとむ◎東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了、富士写真フイルムなどを経て、2001年から桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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