ビジネス

2016.02.14

中国経済の頭脳が明かす「景気減速」の本音

(左)川村雄介 (右)李揚


課題は、過剰資本処理を国内で完結できるか
大和総研主席研究員 齋藤尚登

中国の経済・金融問題は世界の経済・金融問題に発展し得るとの視点がますます重要になるだろう。中国では、2008年11月の4兆元の景気対策で過剰設備問題や過剰融資問題が先鋭化。川村氏からは過剰な資本ストックは20兆元~40兆元に積み上がっているのではとの指摘がなされた。李氏は同意した上で、14年末時点の国家のバランスシートは100兆元の純資産を有し、流動性の高いものだけでも28兆元に達し、いつでも活用可能であると回答した。

重要なのは、こうした過剰資本ストック(潜在的な不良債権)の処理が国内で完結できるか否かであろう。流動性の高い純資産28兆元には、外貨準備や海外株式市場に上場した中国企業の資産が含まれているという。外貨準備の多くは米国国債などで運用されており、それを売却して活用するとなれば、世界の金融・資本市場の動揺を招くリスクがある。過剰資本ストックの処理問題にしても、極力、中国の「国内」問題にとどめることが肝要である。幸いなことに中国の国債発行残高のGDP比は14年末で15%と低水準にとどまっている。

もうひとつ、インタビューでは紙幅の関係で割愛されたが、李氏が今後の中国経済の発展理念としてイノベーションの重要性を強調したことも印象深い。一帯一路(海と陸のシルクロード)構想は、労働コストの上昇や元高によって競争力を失った産業・企業の海外移転を推進する側面を持つ。自国に残った産業をアップグレードしなければ、空洞化は避けられない。イノベーションの重要性は指摘されて久しいが、その実行の真剣度を大きく増そうとしているのかもしれない。



中国は日本の「経験」を研究し尽くしている
長崎大学経済学部教授・南開大学客員教授 薛軍

私は中国経済の先行きに対して楽観的だ。日本の論者の多くはかなり慎重な見方で、ハードランディングに伴って社会的混乱を来すと見立てる向きすらある。

確かに中国経済が、長期にわたる猛スピードの成長が鈍化したため数々の試練に晒されていることは間違いない。高度成長を牽引してきた「三つの馬車」ともいえる投資・消費・輸出がいずれも息切れしている。不動産バブル崩壊、シャドーバンキングや不良債権、企業の高負債率などの問題も深刻だ。中国財政部トップの楼継偉氏すら「現在の中国は『中所得国の罠』に陥る可能性が50%ある」と指摘しているため、日本からは中国経済が霜枯れ模様に見えてしまうのだろう。

しかし、中国政府は日本のバブル崩壊や金融自由化に伴う「痛みの経験」を研究し尽くしている。日本が経験したような苦しみをいかに回避するか、多角的かつ深度をもって検討してきた。中国政府はすでに債務デフォルトの最悪場面での危機対策を考えている。中央政府のマクロコントロール能力は、経済危機においてこそ真価を発揮するはずだ。その企画力と実行力を過小評価すべきではない。

李先生は豪壮の文人気質を胸裏に秘めている。川村副理事長との篤い友情も李先生の琴線が奏でる名曲である。印象深いのは、2年半前の李先生と川村副理事長との会談だ。李先生はアジア投資銀行を中国と日本で一緒にやればと提案したのだ。中国政府が世界に向けてAIIB構想を明らかにする前のことだ。

李先生も高倉健氏の大ファン。学生時代には5~6回も映画館に足を運んで『君よ憤怒の河を渉れ』を見にいったそうである。


9月25日、ホワイトハウスでの晩餐会に招かれた習近平国家主席夫妻 (GILLES SABRIE / GETTY IMAGES)



春節休暇で日本を訪れた中国人観光客。家電量販店などで「爆買い」する人が急増した (CHRIS McGRATH / GETTY IMAGES)

編集 = 藤吉雅春、森裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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