経済・社会

2016.02.14 12:31

「怒りの選挙」で誰がアメリカ大統領に?

illustration by Andy Martin

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クリミア危機にギリシャ選挙、そして移民問題。2015年、世界は大きく揺れた。「経済予測家」として知られる本誌のUS版スティーブ・フォーブス編集長に15年を総括してもらった。
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2015年の世界経済をひと言で振り返るのならば、「失望」だ。

中国経済は明らかに問題を抱えており、日本も景気後退している。アメリカの経済はもう7年近く停滞している。ブラジルをはじめとしたラテンアメリカ諸国もコモディティ価格の下落に苦しんでいる。辛うじてヨーロッパだけが堅調だ。いわば、打率2割台で低迷している野球チームみたいなもので、希望が感じられない。

経済でもう一つ注意すべき点は、連邦準備制度理事会(FRB)、日本銀行、欧州中央銀行(ECB)をはじめとした「中央銀行」による金融政策の“迷走”だ。金融緩和は本来、景気刺激策。ところが現実には金融市場を歪め、景気を悪化させている。金利を抑えれば、市場は正常に機能しない。価格統制と同じで、市場を歪める恐れがある。
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政治に目を向ければ、ヨーロッパの「移民問題」がある。これは、アメリカが国際情勢に積極的に関与しない場合にどうなるかを顕著に表している。オバマ政権はリビアのカダフィ政権を追放することに成功したものの、部族間の抗争の激化やテロリストの台頭を招いた。これがシリアへの内戦にもつながり、難民がヨーロッパに雪崩(なだ)れ込む事態になっている。

クリミア問題では、ロシアに対して強い態度を示すことができなかったために、中東問題でも付け入る隙を与えてしまった。南シナ海の南沙諸島問題も本質は同じだ。アメリカはようやく中国が造成した人工島の「領海」内に海軍を派遣したが、より頻繁に巡視活動を行い、国際法を盾に係争水域であることを主張しなくてはならない。

よくない外交にはそれなりの結果がついて回り、それがひいては反貿易や外国人差別など、政治経済に悪影響を及ぼす。アメリカが外交に対して消極的になると、悪い結果になりがちだ。

米国民にとっての“怒りの選挙”

政治経済の両面で振るわないことから、16年に大統領選を控えるアメリカでは、有権者が政治に対して失望している。その結果、不満の意思を示すために彼らは“アウトサイダー”を支持している。暴言で話題になっている共和党候補のドナルド・トランプへの支持もその一例だ。

民主党ではバーモント州知事のバーニー・サンダースが躍進しているが、彼は筋金入りの共産主義者である。当選するとは思えないが、重要なのは彼が支持されている点だ。すなわち、左派の支持者にも怒りや不満が溜まっていることを意味している。

なんといっても、サンダースは冷戦最中の80年代にソ連(当時)の首都モスクワに新婚旅行へ行ったような男である。しかも誘拐されたわけではなく、自ら喜んで行ったのだから驚きだ。同じ敵国でも、せめて太陽とビーチがあるキューバにすればよかったのに、と思う。かなり風変わりな人物だが、それが今では民主党支持者の3分の1から支持されているという。それほどに有権者は怒っている。

民主党からはおそらくヒラリー・クリントン前国務長官が候補者指名争いに勝利するだろう。共和党は、テッド・クルーズ上院議員やマルコ・ルビオ上院議員が要注目だ。ただ、波乱含みで伏兵の台頭もあり得る。ここにきて、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティもにわかに注目を浴びている。安易な予測は禁物だが、16年大統領選では共和党にも勝機はあるのではないだろうか。

とはいえ、どの候補が選ばれるかはフタを開けてみないとわからない。候補者も多く、各候補とも資金が豊富。12年の大統領選とは異なり、熾烈(しれつ)なものとなるのは間違いない。少なくとも、16年の2月頃まで候補者の大きなふるい落としはないだろう。

日本復活の“切り札”とは

日本経済の復活も16年の世界経済を占ううえで、大きな焦点となる。日本は、20年近く金利を抑えてきたが、あまり効果がないこともわかってきた。

円安も経済によいとは言い難い。そもそも、通貨の切り下げは「フールズ・ゴールド(黄鉄鉱)」のようなもの。体重計の目盛りをいじれば、体重が減ったように見えるが実際は違うのと同じだ。時計が時間を計るのと同じで、お金とは、モノやサービスの適正価値を測るモノサシにほかならない。行きすぎた金融操作は、市場に悪影響を及ぼす。

確かに、短期的には一部の産業を利するかもしれない。しかし、ダメージを受ける産業があるのも事実。それは結果として、経済成長を損ねることになる。

私のささやかな願いは、安倍晋三政権が金融政策に頼るのではなく、真の経済成長を促す税率の引き下げや構造改革を進めることだ。すでに、14年の消費税増税による購買意欲の衰退は教訓となっているはず。所得税率も高すぎる。日本は50〜60年代に頻繁に税率を引き下げ、それが奏功した。歴史から学べることもあるのではないだろうか。

日本にはグローバル企業が数多くあり、国民の教育水準は高く、勤労意欲も高い。それでもかなりのポテンシャルを秘めながら、それを十分に生かせていない。だからこそ、円安や過度の金融緩和をやめ、税率を引き下げ、財政支出を削ることが必要だ。新規参入しやすいように構造改革を進め、女性やシルバー世代の労働市場への参加を促す—。

構造改革を進めると、起業家が生まれやすくなるという利点がある。これは単に経済回復ということに留まらず、日本を完全に復活させることにもつながる。70年代、多くのアメリカ人はアップルやマイクロソフトといった企業を知らなかった。でも、そうしたスタートアップは、いまや誰もが知るグローバル企業へと成長した。日本にもそれができないわけがない。

フォーブス ジャパン編集部 = インタビュー

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