ビジネス

2016.02.09

模造品帝国アリババを支える面々

アリババ・グループ会長 ジャック・マー (Anadolu Agency / Getty Images)



28歳の女性C・ディはツァイほどマークされていない。彼女はグッチ、フェンディ、フェラガモなどの大手ブランドのデザインを真似て、広東省の工場に委託して模造品を作らせている。13年にタオバオに出店すると大きな儲けが出たので、公務員の仕事は辞めた。今では月々3万ドル相当の模造品を売りさばき、1,500ドル以上の利益を手にしている。

それでもディがアリババから罰則を科されたのは一度きりだ。その時はフェラガモのバッグと瓜二つの模造品を売らないよう申し渡された。彼女はその経験から、真正品と微妙にデザインを変えることで発覚を避けるようにしている。それでも彼女の商品には依然として明らかなコピー商品も含まれている。最近売り出したマイケル・コースのハンドバッグには、内張りに同ブランドのロゴも入れた。サイト上の商品説明には、これを作った工場がマイケル・コースの知的所有権の侵害で罰金を科されたことを明示した。

「タオバオには独自のルールがあります」と、ディは言う。「長く出店していると、上手にリスクを避ける方法がわかってくるのです」。

グッチや日産にとって、あるいは数百万人の顧客にとって、ツァイやディたちはペテン師かもしれない。

しかしマーは、「多くの貧しい中国人たちに起業の機会を与え、その暮らしを向上させてきた」という自負がある。いまだ貧しい中国で、何とか豊かになろうと奮闘しているタオバオの出店者全員に対し、彼は責任を感じているのである。そのために知的所有権の擁護が二の次になるなら、それもやむを得ないと思っている。

マーはすでに、あまりに大きな影響力と財力を持っているだけに、怒れるブランド企業も彼の考えを無理やり変えることはできない。それに数百万人の顧客がタオバオの出店業者に金をむしり取られている一方で、別の数百万人は安価にブランド品を手に入れる形で悪事に加担しているのだ。

国内的には、現状を維持するのがマーにとって最も楽な道だろう。一方で対外的には、模造品問題に真剣に取り組む姿勢を見せるのが最も賢明だ。誰もが満足する解決策を模索するのが中国の政治思想の王道だったが、今回はビジネス上の利害関係者の間でそれを行う必要がある。

「アラビアンナイト」に登場したアリババの運命を覚えておいでだろうか。彼もまた盗賊団との間にもめ事を抱えた。そして、欲深い兄弟や忠実な奴隷、怒った盗賊団などの雑多な利害関係者に対応しなければならなかった。しかし最後にすべての黄金を手に入れたのは、アリババだった。

アリババ・グループ(阿里巴巴集団)
www.alibaba.com
中国の浙江省杭州市に本社を置く IT企業。1999年にジャック・マーが創業した。企業間電子商取引(BtoB)のオンライン・マーケットを運営しており、ユーザー数は5,340万人以 上にのぼる。2014年にNY証券取引所に上場し、250億ドルを調達。15年3月期の収益は対前期比43%増の123億ドル、純利益は同2.8%増の 39億ドルとなっている。ジャック・マーは15年11月には、米「Forbes」誌が選ぶ「世界で最も影響力のある人物」の22位に選出された。

マイケル・シューマン = 文 町田敦夫 = 翻訳

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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