出口の見えない内憂外患
「我々は模造品テロリストと戦う軍隊なのだ。ブランド企業は戦士を殺すのではなく、我々に協力してほしい」と、マーは呼びかける。
ニューバランスのダン・マッキノンによれば、同社がアリババの模造品排除プログラムに加わって以来、怪しげな商品は以前よりずっと効率的に排除されるようになった。しかし、たとえ数千点を削除したところで、所詮は「バケツの中の一滴」に過ぎない。タオバオ上には常時、模造品らしきニューバランス製品が平均13万点も掲載されているからだ。
「アリババの幹部はブランド企業に満足してほしいと望んでいます。しかしブランドだけに満足してほしいとは望んでいません」と、マッキノンは言う。「彼らは出品業者や消費者にも満足してほしいと望んでいるのです」。
ワシントンに本部を置く国際模倣対策連合は、13年にアリババと覚書を交わし、タオバオから模造品を排除するプロジェクトを開始した。2人のアナリストと1人の弁護士を雇い、プロジェクトに参加した20のブランド企業の苦情提出に協力したのだ。その甲斐あって、これまでに13万点の模造品がタオバオから削除された。
しかし、日産のウィリアム・フォーサイスは、それほど楽観していない。安全上の懸念を前面に打ち出し、監視を継続している。アリババ傘下のサイトで売られる模造品の自動車部品が中国の消費者を傷つけかねないし、やがてはそれらが米国の修理工場や自動車部品店にまで浸透していく恐れがあるからだ。実際、何かを物語るかのように、アリババ・ドット・コムは同社のサイト上でエアバッグの販売を全面的に禁じている。
「彼らは左手で金を数え、右手で自分たちの目を覆い隠している」と、フォーサイスは指摘する。
現実問題として、アリババは3種類の利害関係者に対応しなければならない。ブランド企業、出店業者、そして消費者だ。「1つの模造品によって5人の顧客が離れていく」と、マーは言う。「うまく管理しなければ、さらに多くの顧客を失うだろう」。
顧客保護のポーズを取るため、タオバオはある不正防止のシステムを導入している。各種の違反を犯した出店者に「ストライク」や「ポイント」などの罰則を科すのだ。模造品を売ると「ストライク」が1つ科され、それが3〜4回重なるとアリババ側に店を閉鎖される。
しかしこのシステムにはいくらでも抜け道がある。たとえば1年間の罰則が一定の範囲内なら、いったん記録は抹消され、よほどの悪質業者でない限り出店を続けられるのだ。たとえ店を閉鎖されても、別の店名で登録すれば、商売を再開することができる。
アリババ・グループ(阿里巴巴集団)
中国の浙江省杭州市に本社を置く IT企業。1999年にジャック・マーが創業した。企業間電子商取引(BtoB)のオンライン・マーケットを運営しており、ユーザー数は5,340万人以 上にのぼる。2014年にNY証券取引所に上場し、250億ドルを調達。15年3月期の収益は対前期比43%増の123億ドル、純利益は同2.8%増の 39億ドルとなっている。ジャック・マーは15年11月には、米「Forbes」誌が選ぶ「世界で最も影響力のある人物」の22位に選出された。