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2016.01.28

東大発バイオベンチャー企業、その夢の軌跡

ペプチドリーム創業者の菅 裕明 / photograph by Jan Buus


生体内の至るところに存在する生体構成分子のペプチドから医薬品をつくることができれば、安全性の高い、微量で強力な薬効を有する医薬品の開発が期待できる。しかし、菅が東大で研究を始めたころはとても無理だと考えられていた。

「もっと低分子医薬によったところで抗体医薬と同じことができれば製薬業界がガラリと変わるというのは誰もがわかっている。それを実現するために何がいいかといえば、ペプチドがその最有力候補なんです。だけど具体的にどうやって実現できるのか、そのアイデアは当時誰も持っていなかった」

ユニークな発想と智恵、20年で培った技術で菅が開発した特殊ペプチドは、想像を超えた形をしているそうだ。製薬会社の研究員にX線でその結晶を見せると、ほとんどが「これなら薬がつくれるに違いない!」と確信するという。もちろんそんなにすぐに薬は開発できないが、それさえ乗り越えれば、かなり大きな“ゲームチェンジ”が製薬業界で起きる可能性があると菅は考えている。

15年4月、文部科学大臣表彰の「平成27年度科学技術賞」*3受賞者のなかに菅はいた。「特殊ペプチド創薬イノベーション研究」を国から高く評価されてのことだ。

ガレージ同然のスタートを切ったペプチドリームは、設立9年で世界の製薬会社から引きも切らないオファーを受ける企業へと成長した。しかしその成功は「日本初の新技術で世界初の創薬を」という創業当時の夢をいまも変わらず菅と窪田が共有しているからだろう。菅は言う。「窪田は最初に倉庫から引っ張り出した中古の机と棚をいまだに使っているんです。そういうところが好きですね」


*3 文部科学大臣表彰科学技術賞
科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲向上を図り、日本の科学技術水準向上に寄与することを目的とする賞。賞の部門には開発・研究・科学技術振興・技術・理解増進があり、東京大学大学院理学系研究科教授菅裕明とペプチドリーム常務取締役研究開発部長リード・パトリック両名は「特殊ペプチド創薬イノベーション研究」で2015年度の科学技術賞を受賞した。


◎菅裕明
1963年生まれ。岡山大学大学院修了。マサチューセッツ工科大学でPh.D.を取得し、ニューヨーク州立大学バッファロー校の准教授などを経て帰国。東京大学先端科学技術研究センター助教授に。2006年、ペプチドリームの設立に参画。現・東京大学大学院理学系研究科教授。音楽愛好家で、研究クライマックス時の脳内テーマソングは「Come Together」。

ペプチドリーム株式会社
主な沿革

2006年7月
東京都千代田区において設立(ラボは東京大学先端科学技術研究センター内)
2009年4月
本社及びラボ機能を東京都目黒区(東京大学駒場リサーチキャンパスKOL内)に移転
2010年11月
米国アムジェン社と創薬開発に関する共同研究開発契約を締結
2010年12月
田辺三菱製薬と創薬開発に関する共同研究開発契約を締結
2012年7月
第一三共と創薬開発に関する共同研究開発契約を締結
2012年9月
英国アストラゼネカ社、英国グラクソ・スミスクライン社と創薬開発に関する共同研究開発契約を締結
2012年11月
スイス・ノバルティス社と創薬開発に関する共同研究開発契約を締結
2013年3月
仏国イプセン社と創薬研究に関する共同研究開発契約を締結
2013年6月
株式会社東京証券取引所マザーズに上場
2013年9月
米国ブリストル・マイヤーズスクイブ社とPDPS技術ライセンス契約を締結(技術貸与の実施)
2013年12月
米国イーライリリー・アンド・カンパニー社と創薬開発に関する共同研究開発契約を締結
2014年4月
スイス・ノバルティス社とPDPS技術ライセンス契約を締結(技術貸与の実施)。米国メルク社と創薬開発に関する共同研究開発契約を締結


文=堀 香織

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