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世界37カ国、700万人が愛読する経済誌の日本版

Thorsten Henn / gettyimages

世界的にクラシック音楽CDの売り上げが落ち、音楽配信サービスも伸び悩んでいる。音楽業界が生き残るためのヒントは、生誕205年を迎える作曲家のショパンにあった?

10月中旬、「第17回ショパン国際ピアノコンクール」がショパン生誕の地、ポーランドの首都ワルシャワで開催された。日本からは小林愛実さんが本選に残ったことが話題になったので、読者諸賢にはよくご存じの方もいることだろう。

ショパン国際ピアノコンクールは5年に1度開催される。オリンピックよりも間隔が長く、3位以内の入賞者はほぼ一生、ピアニストとしての人生が保証される。マンガ『ドラゴンボール』でいうところの“天下一武道会”のようなもので、全世界から「我こそはピアノの名手なり」と自他共に認める人たちが集まる大会だ。

じつは、その1カ月前にアマチュア対象のショパン国際ピアノコンクールが行われ、私は出張ついでにその模様をワルシャワで見ているので、「ショパン・イヤー」さながらの趣あるときを過ごすことができた。

ところで皆さんは最近、ショパンの演奏を聴く機会があっただろうか。では、クラシックのコンサートを聴く機会は?

おそらく、「昔はよく行ったけれど、最近は行っていない」という方が多いのではないだろうか。たぶん、そうした方はクラシックの演奏会に行くのが嫌いになったわけではなく、たんに優先順位が下がっただけだろう。

しかし、これがクラシック業界にとっては由々しき問題なのである。特にCDの売り上げの減少は顕著だ。

これは何もクラシック業界に限った問題ではない。音楽全体が無料化の流れに押されており、CDなどで収入を上げることが難しくなっている。映画であれ、テーマパークであれ、本であれ、あらゆるレジャーが時間とお金を消費するからだ。

そのなかで最も有限といえる資源が「時間」である。ほとんどすべてのサービス業は顧客の資産ではなく、「時間」の奪い合いをしている。

加えて、クラシック音楽の場合は、ロッキングチェアにもたれかかりながら、ゆっくりと楽しむようなライフスタイルまでも失われつつある。状況は厳しい。

ショパン満載の専用アプリ

ショパンは、200年以上聴かれ続けてきたモンスター級の音楽コンテンツだ。ピアノ曲が好きな人でショパンを知らない人はいないし、多くのクラシック愛好家に愛されている作曲家でもある。

ただ、そのショパンも聴いてもらえなければ価値は伝わらない。だから、彼の曲を弾くピアニストの存在が不可欠だ。ところが、そのピアニストが食えなくなっている。それはショパンといえども、無数の“時間消費型課金サービス”との競争にさらされているからだ。だからこそ、生き残るには「消費者の時間の奪い合いに勝てるかどうか」がカギとなる。

この点は、フレデリック・ショパン協会国際連盟の関係者も重々承知している。芸術だってビジネスだからだ。その意味で、今回のショパン国際ピアノコンクールは非常に興味深かった。スマホ向けのコンクール専用アプリが提供されており、ダウンロードすると演奏のライブ中継や審査員のインタビューなどが聴けるのだ。さらに演奏はリアルタイムで世界に中継され、演奏中にチャットもできる。

このように、ショパン協会は時代の変化に“適応”しようとしているのだ。スマホを多くの人が見ているなら、それをアプリで占有すれば、見てもらえる頻度が高まる。彼らは、ショパンというコンテンツでアプリ市場に参戦する、という明確な意思を持っているのである。

これを「商業主義」として嫌う人もいる。芸術の分野では至極当然の議論だ。とはいえ、お金を稼げなければ、どのような分野であっても生き残ることはできない。ましてや、プロのピアニストたち自身が時代の変化を痛切に感じているのだ。事実、審査員のインタビューには、「ネット社会でいかにして生き残るか?」というやりとりが多く見られた。

演奏も芸術的評価のなかにあって、よりライブ感のある演奏が評価されていたように思う。果たしてライブでお客様を呼べるかどうか—。これは、日本の芸能界でもCDの売り上げに頼ることができなくなったので、ライブでの集客に力を入れている動きと符合する。ショパンの演奏も、ライブでも“魅せる”ことができるかどうか、という評価が重要になってきたのかもしれない。

ショパン協会は懸命に生き残ろうとしている。大切なショパンを陳腐化させないよう、時代の波に適応しようとしているのだ。当のショパンは40代を前に早世してしまったが、その類まれなる才能は時代を超えてきた。そして、それを後進の芸術家たちが守り抜いてきた。彼らはアプリ開発やライブ化などの道を模索し、時代の流れに合わせようとしている。

一見保守的なクラシック業界でもそのようなダイナミックな変化が起きているのだ。私たちビジネスパーソンが時代に適応しなくてどうするのか?

冒頭の小林愛実さんは惜しくも入賞を逃した。確かに、ショパン国際ピアノコンクール入賞の栄誉は計り知れないが、それも長い音楽人生の一場面にすぎない。

彼女のような卓越した才能の持ち主を大切に育てられるかどうか。それも私たち次第だ。

ふじの・ひでと◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。東証アカデミーフェローを務める傍ら、明治大学のベンチャーファイナンス論講師として教壇に立つ。『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(講談社刊)など著書多数。

藤野英人 = 文

 

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