水不足の状態で体重を管理することがどれほど難しいか、考えてみてほしい。推奨されている1日当たりの水の摂取量はグラス8杯ほどだ。水を飲むと食欲が抑制され、カロリー摂取量を減らすことができる。また、食品や砂糖入りでカロリーの高い飲料の代わりに摂取した水を体内で熱に変えることになれば、体が消費する熱量が増える。
成人の体の約60%は水分が占めている。そして、消化や唾液形成、体温調節、酸素の運搬、脂肪の燃焼、関節の保護、老廃物の排出など体の機能の大半は水を必要とする。脊髄や主要な臓器にも水が不可欠だ。さらに、私たちの体には常に、排尿や発汗、化学反応で失われた水分の補給が必要となる。
複雑なシステムを持つすべてのものがそうであるように、複雑な私たちの体は水のように重要な構成要素に問題が起きれば、何らかの変調をきたす。肥満は単なる食べ過ぎと運動不足の結果ではない。睡眠障害や投薬など、体の代謝作用に生じるさまざまな混乱が体重増加につながり得ることを示す証拠がある。水分の欠如は、代謝に対する重大なかく乱要素となる可能性があるのだ。十分な水を飲まずに動き続ければどうなるだろうか。高温の中で十分な水分を取らなければ、熱中症の危険にさらされる。活動を続ければ、死の危険もある。
次に、健康的かつ未加工の食品を毎日摂取するには、どれだけの水が必要かを考えてみよう。水がなくては、果物や野菜を洗うことができず、何かをゆでることもできない。米国医学研究所(IOM)の2004年の報告書によると、私たちが毎日摂取する水分のうち約20%は、食品に含まれている。一日3食ともクッキーを食べたとしよう。それで一時的に食欲が満たされたとしても、その食生活の影響はいずれ明らかになる。同様に、混じりけのない水以外は、一時的に喉の渇きを癒してくれても、余分なカロリーを摂取してしまうことになる。さらに、その飲料に利尿作用があるカフェインが含まれていれば、体はさらに水分を欲することになる。水の代用になる水分は、他には存在しないのだ。
貧困と肥満の問題にも水が影響
一方、安全な飲料水が供給されていない場所では、健康面で安全性の低い代用品で水分を取ることになる。複数の調査結果から、水道水が安全ではないと考えている人たちの間では、砂糖入り飲料の摂取量が多いことが分かっている。貧困問題を研究するカリフォルニア大学デービス校のグループの調査によると、同州セントラル・バレー地区で過去に水質監視に関する規則違反があった低所得層が多い2地域では、3~8歳の子供の肥満率が28%で、全米の平均を大きく上回った(米国全体では、2~5歳が平均8.4%、6~11歳が同17.7%)。こうした子供たちの38.5%が、毎週2~3回は砂糖入り飲料を摂取しており、母親らはその理由として、「水道水は味も色も悪い」「汚染が心配」などを挙げた。
ジョン・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部のケロッグ・シュワブ博士は貧困層の肥満と水の関連について、「安全な飲料水の不足だけが、肥満のまん延の背景にあるわけではないだろう。だが、水供給の状況改善が、貧困層が抱える栄養不足と肥満という2つの深刻化する問題への対処に大きな役割を果たす可能性はある」と述べている。