トリノでの銀メダルから10年:米国フィギュアスケートのサーシャ・コーエン、独占インタビュー(後半)

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2016年1月22日に、サーシャ・コーエンは米国フィギュアスケート殿堂入りを果たす。インタビュー前半では、ソルトレークシティオリンピック以降、銀メダルを獲得したトリノオリンピックまでの歩みを振り返った。後半は、2010年のバンクーバーオリンピックで25歳という年齢でのカムバックを目指した真意や、競技とアイスショーの違い、フィギュアスケートの採点についても語ってくれた。

ジム:2010年のバンクーバーオリンピックで3度目の出場を目指したときは25歳になっていましたね。25歳といえば、フィギュアスケートでは年齢的にも限界とされる年だとよく言われますが、実際はどうだったのでしょう。

コーエン:本当に難しかったです。体力的にもきつかったし、怪我も抱えていました。フィギュアスケートの選手生命は短いんです。18~19歳、遅くとも20代初め頃にピークを迎えたら、それ以降ピークを維持するのは不可能です。

ジム:それが分かっていて、どうしてあえて挑戦しようと考えたのですか。

コーエン:人生の目的のようなものを探していたんです。2006年以降は競技生活をストップし、その後2、3年の間はアイスショーに出たりしていましたが、ずっと何かが違うと感じていました。特に生活に不満があったというわけではありません。選手時代と違い、クリスマスにクッキーを焼いたり、感謝祭の日はお腹いっぱい七面鳥を食べてくつろいだりと、長い間憧れていた生活を送れていたはずなのに、何か物足りなさを感じていました。

それまでの自分を振り返ってみると、私の人生はスケート一色でした。他の子どもたちが家族といっしょにピクニックに行って楽しそうに休日を過ごしているのを横目に、私はスケートリンクに直行してリンクでひたすら滑り、それが終わればトレーナー指導のもと陸上選手のように運動場で走り込みをしていました。泣きながら、「家に帰りたい!」と言ったこともあります。色々なことを一人でやらなくてはいけなかったのは、すごくつらかったです。それでも、それはやるだけの価値があるのだということも、経験から分かっていました。あれは、他にどんなことをしても決して味わうことができない気持ちでした。そういう想いがあったからこそ、25歳という年齢で3度目のオリンピックに挑戦して、もうフィギュアスケートでやり残したことはないということを確認したかったのだと思います。

ジム: ところで、オリンピックとアイスショーの違いについて、あまり理解していない人も多いと思うのですが、選手の立場からは具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

コーエン:競技とアイスショーでは求められる次元が全く異なります。アイスショーは観客を喜ばせるためのエンターテイメントです。スポットライトがあたり、音楽も競技用とは異なります。何より、競技用と比べて技術的なレベルを遥かに落としています。でも競技となれば、難易度や技術点、全体の構成など、あらゆる点で最高レベルのものが求められるため、チームで総力を挙げて向き合う必要があります。その状態を維持して試合にのぞもうと思えば、1シーズンに6大会出場するのが限界でしょう。でも、アイスショーなら年間150回だって滑れます。体力的にも、精神的にも、感情的にも、アイスショーだとそれだけ滑る余裕ができるのです。

ジム:ここ10年でフィギュアスケートの採点方法が変化したように見受けられます。ジャンプなど技術点を重視する反面、芸術性がそれほど評価されなくなったように感じるのですが、コーエンさんはどうお考えですか。

コーエン:採点方法の傾向について分析するのは難しいです。でも、残念なことに、最高得点を出すために取り入れなくてはいけない技術やジャンプがあらかじめ決められているためか、近年は多くの選手が非常に似かよったプログラム構成で試合にのぞんでいます。その結果、フィギュアスケートの魅力が押しつぶされているように感じます。身体能力に優れた選手もいれば、芸術性に卓越した選手もいる。昔の方が、演技を通じて自分の強みを輝かせるのに成功していた選手が多かったような印象です。主観的な要素が強いため、フィギュアスケートの演技を採点するのは非常に難しいのは事実です。一方で、採点基準に不明瞭な点が多く、そのせいでファンが遠ざかってしまっている面も否めません。これらの点については、今後一層の改革が必要だと思います。

ジム:最後に、コーエンさんがスケート人生を通じて学んだ教訓を教えてください。

コーエン:人生で何が起きるかをコントロールすることは不可能ですが、起こったことをどう受け止めて行動するかは自分次第だ、ということですね。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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