ビジネス

2016.01.23

ルイ13世×伊勢丹三越 伝統の上に成り立つ革新とは?

photographs by Takanori Fujishiro

去る2015年9月30日、コニャックの王“ルイ13世”の5代目セラーマスター、バティスト・ロワゾーの来日を記念して、三越伊勢丹の社長、大西洋との特別対談が行われた。ともに約300年の歴史を誇る名門ブランド。2人は100年の雫が紡ぐ極上のコニャックが織りなす歴史と革新を語った。

大西:ロワゾーさんは昨年、史上最年少34歳の若さでセラーマスターに就任されました。来日は今回で2回目ということですが、日本の印象はいかがですか?

ロワゾー:私のような若輩者が就いたことは、地元フランスでも皆に驚かれました。リスクは負い、それを昇華してこそ、未来があるものと思っています。

今回の来日は、ルイ13世のご紹介が目的です。私のノウハウを皆さまにご説明しています。今日は、フランスの職人的伝統工芸とはどういうものなのか、ルイ13世がなぜこのようにきらめくのか、についてお話しさせてください。日本の皆さまは、ルイ13世の価値を受け止めうる、文化的な基礎をお持ちだと思っています。

大西:ありがとうございます。それでは、そのルイ13世ができるまでの流れを教えてください。

ロワゾー:物語はフランスのコニャック地方にあるグランド・シャンパーニュ地区という小さな土地から始まります。ルイ13世は1874年に誕生して以来、コニャック地方で特に石灰質を多く含んだグランド・シャンパーニュ地区のぶどうしかブレンドしないと決められています。その貴重なぶどうを収穫してワインにし、蒸留する。そうして生まれたオー・ド・ヴィー、すなわち「命の水」と言われる原酒をセレクトしていくのです。

40~100年の時を経た1,200種ものオー・ド・ヴィーのブレンドにより、複雑な香りがもたらされます。ブレンドを繰り返すことで、さまざまな香りのバランスが生まれ、ルイ13世の滑らかなハーモニーがつくり出されるのです。私は先代から「オー・ド・ヴィーをリスペクトしなさい」と繰り返し教わりました。

大西:長い年月を経て、多くの手間をかけてつくり上げていくプロセスは、百貨店ビジネスにも通じるところがあります。ただ、ルイ13世はすでに世界的に評価されたブランドです。一方、三越伊勢丹のブランドは世界に通用するかというと、いまのところ限定的でしょう。百貨店は時代の変化に対応していかなければなりません。いいものは残し、変えるべきところは変える。伝統と革新のバランスが課題なのです。

ロワゾー
:三越伊勢丹とレミーマルタンは、ともに長い年月を刻んできた企業ですね。長寿命の秘訣は何にあるとお考えですか?

大西
:百貨店の場合は、変化が非常に重要なので、既存のビジネスモデルを破壊して、新しいものをつくっていかなければなりません。事業は安全策をとればそれなりに存続していくものですが、時代とともに成長していくためには、やはりイノベーションが必要です。今後は、日本にある、まだ誰にも気づかれていないすばらしいものを世界に紹介していきたいと思っています。

ロワゾー
:私も伝統を守り、先代の教えをリスペクトしつつも、新しくて革新的なもの、例えば樽を特別に厳選した限定品などを、誠実に、そして楽しみながらつくっていきたいと思います。


おおにし・ひろし◎1955年、東京都生まれ。79年慶應義塾大学商学部卒業、伊勢丹(現・三越伊勢丹)入社。紳士服販売部門や海外勤務を経て、2003年に新宿本店のメンズ館リモデル・オープンを成功させる。12年から現職。

バティスト・ロワゾー◎1980年、フランス・コニャック地方生まれ。農学や醸造学の教育を受けた後、2005年フランス国立コニャック生産者協会に参画。07年レミーマルタンにプロジェクト顧問技師として入社。14年から現職。

北島英之=文 藤城貴則=写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.18 2016年1月号(2015/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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