ARCH Ventureのパートナー、ロバート・ネルソン(Robert Nelson)は、「効果の検証はこれからですが、たった1回の検査で、複数のがんに関する膨大かつ詳細な情報を知りうる可能性が高いのです」と述べている。
IlluminaのCEO、ジェイ・フラットレー(Jay Flatley)によると、同社はこれまでに、DNAシーケンスを、ムーアの法則を上回るスピードでパワーアップしてきた。GRAIL設立のきっかけとなったのは18か月前の出来事、lluminaの研究員が血液の解析中に、性能向上が著しい同社のシーケンサーで、ごく微量のDNAを検知できることに気がついたのだった。
「極めて初期段階の腫瘍が、自身のDNAを血中に放出するという現象があります」。Illuminaの役員、リチャード・クラウスナー(Richard Klausner)は2014年12月に開催されたフォーブス・ヘルスケア・サミットで語った。「当社ではこれを、驚異的な正確さで計測することができます。この先数年間のがん治療最大のブレイクスルーとして、血液ないし尿検査による初期段階のがん発見が実現するかもしれません」
がん細胞も元々は人体と同じ遺伝子コードを持っている。しかし、そのDNAではゆっくりと変異が起き、やがて人体の指示を無視して成長し始める。がん細胞は免疫システムから身を潜め、宿主のエネルギーを奪い取る。変異したDNAは、初期段階でごく微量ながら血中に存在する。フラットレーは、このDNAを検出し、さまざまな遺伝子変異を突き止め、極めて高い確率でがんの存在を発見することができるはずなのだという。もっとも現時点では、これは研究者の推論にすぎない。
こうした検査の有効性を証明するには、膨大な努力と費用がかかるものと思われる。フラットレーは、がんの兆候をしめす変化を見いだすには、何万もの患者の遺伝子を何万回も解析するような研究の必要があるのではないかと想像している。
解決すべき課題も指摘されている。本来免疫システムが食い止めることができるような小さながんまで検知してしまい、患者に無用な治療を受けさせることにはならないのか。そもそも検査が間違うことはないのか。そしてGRAILは本当に検査の有効性を証明することができるのか。
フラットレーも、GRAILは小さなステップを一歩ずつ踏みしめていくしかないかもしれないと認める。1つのアイデアとして、GRAILの検査をマンモグラフィと組み合わせて利用することが考えられる。マンモグラムは偽陽性率の高い検査である。血液検査と組み合わせることで、苦痛の大きな生検を減らすことができるれば、それはそれで大きな成果だ。
現時点ではGRAIL検査は存在すらしていない。フラットレーは、検査は1年以内に開発可能、2017年からは大規模な治験を行うことができると自信をみせる。その前に食品医薬品局の認可を得なければならないし、CEOも探さなければならない。クラウスナーはIlluminaを退職することが決まっているが、GRAILにはディレクターとして残る。GRAILは当面、Illuminaの連結子会社として運営されることになる。
フラットレーとネルソンは、この検査は将来的に、がんを発見するだけでなく、がんを殺すことにも役立つと考えている。この検査で発見されたDNA変容を抗原受容したキラー白血球を工学的に作成し、患者の体内に注入するという方法だ。もっとも、白血球のカスタムデザイン自体が、まだまだ構想段階に過ぎない。
ネルソンは、がんの世界は変化が激しいのだと語る。「こうしたさまざまな動向はやがて1つに収斂していくと思う。毒性があって、効き目は最低限といった抗がん剤しか持っていない大手製薬会社は不安でいっぱいだろう。これから素晴らしい時代が来るんだ」