トランプはこれを受け、「非常に高く評価されている大統領」「(我々は)はうまくやっていける」とプーチンを持ち上げてみせた。さらに、「複数のジャーナリストや政敵を殺した…他国を侵略した」とされるプーチンを警戒するよう呼びかける声があることについて、十分な証拠はないと一蹴した。だが、ロシア政府が検察、裁判所、秘密警察を支配している限り、これらに関する証拠は出てこないはずだと考えるのは、認識が甘い者だけだ。実際にはプーチンのハイブリッドな駆け引きともっともらしい否定によって、国際秩序に対するプーチンの罪は証拠もうやむやにされている。
(注記:著者はトランプの対立候補、ベン・カーソンの外交政策顧問の一人だが、本記事の内容は必ずしも、カーソンの意見とは一致しない)
トランプはプーチンのお世辞に返事をする際、次の7つの危険な事柄に注意すべきだ。
1. ロシアが停戦を仲介したウクライナの親ロ派武装勢力と政府軍の戦いにより、今も毎日のように死者が出ている。自宅を追われた市民は50万人を超え、約400万人が絶望的な状況に置かれている。国連の推測によれば、戦闘による死者は少なく見積もっても9,000人以上、負傷者は約2万1,000人とされる。
2. プーチンは2007年以降、繰り返し米国を最大の敵と名指ししている。プーチンの世界では、米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国はロシアを包囲し、国家を分断させようとしている。従って、ロシアの(ジョージア、クリミア、ウクライナへの)軍事行動はすべて純粋に、世界の主たる悪の根源から母国ロシアを防衛するためのものなのだ。そのプーチンと、トランプはどうやって「うまくやっていける」のか?
3. プーチンはエリツィン政権下で連邦保安局(FSB)長官だった1999年、死者300人と負傷者1,700人を出したモスクワほか2都市のアパート爆破事件に関与したとされている。この一連の爆破は、プーチンの支持率上昇と2000年の大統領選出につながったとされる。
4. 重要な政治問題についても、プーチンは公然とうそをつく。昨年4月には「ロシア軍はウクライナに駐留していない」と明言したが、12月になって発言を撤回。また、2014年3月には、クリミア併合についても自国軍は関与しておらず、市民らの自発的な行動の結果だと述べた。だが実際には、ロシアは武力でクリミアを併合した。
5. 国際非営利団体ジャーナリスト保護委員会は、ジャーナリストにとって最も危険な国ランキングの7位にロシアを挙げている。欧州でこのランキングに入る国は、ロシアだけだ。
6. プーチン政権下では、一地方や地域ではなく国の重要な地位にあったロシア人政治家が、少なくとも8人暗殺されている。最も注目を集めたのは、野党指導者ボリス・ネムツォフが昨年、モスクワのクレムリン近くで殺害された事件と、FSB元職員のアレクサンドル・リトビネンコが2006年、ロンドンで放射性物質ポロニウム210によって毒殺された事件だ。
7. カレン・デウィシャは著書で、プーチンは側近らと共に「犯罪組織」としてのロシアを運営し、国民や国家の金を横領して私腹を肥やす盗賊政治を行っていると指摘する。プーチンは世界有数ではなくとも欧州で有数の富豪だが、その富を正確に把握することは不可能だという。ロシアの富豪トップ10は総額約1,250億ドル(約15億円)を保有しているとされるが、「ボス」がそれ以下の金額で満足するとは思えない。
人から盗むことなく自ら巨額の富を築いたトランプが、国家的な「泥棒」からのお世辞を歓迎するだろうか?