テクノロジー

2016.01.20 07:00

産業用ロボットに革命をもたらす知能化技術

photograph by Keith Ng

人が教えなくても、ロボットが自ら学習し、働くようになる。MUJINが描く、未来の工場とは—。

現実派の営業マンと天才肌の技術者—。米アップルやホンダを彷彿させる創業者コンビが、ロボット活用の新境地を切り拓いている。これまでの産業用ロボットは、人の手によるティーチング(教示)が必要な上、作業に僅かな変更点でも生じれば最初から全てやり直さなければならない。MUJINの知能化制御技術は、この作業を自動化し製造・物流現場のコストを大きく省く。既存ロボットメーカーのオペレーションシステムに依存せず、導入後はMUJINコントローラーで直接制御でき、汎用性も高い。つまりはスマートフォンにおけるアンドロイドの役割を担う。

大手自動車メーカー各社やEC物流大手などの大企業への納入実績を持つ、この唯一無二の制御技術を開発したのがCTO(最高技術責任者)の出杏光魯仙だ。ロボット研究の世界的権威・金出武雄の元で学び、カーネギーメロン大学で博士号を取得した。そんな出杏光が2009年、東大研究員時代に訪れた国際ロボット展でCEOの滝野一征と出会う。当時、滝野は大手工具メーカーのトップ営業をしていた。地上と宇宙をつなぐ「宇宙エレベーター」などの夢を語る出杏光に対し、超現実的な滝野はどこか近寄りがたさを感じたが、対照的な両者は馬が合い、11年のMUJIN共同創業へと繋がる。

得意分野はそれぞれ異なるが、“お客様第一”という根の部分が一致し、激しい議論はより良い判断へと帰結。その成果が、主力製品の「バラ積みピッキング知能システム」である。ピッキングは、現場効率・コスト面に大きく貢献するキラーアプリであり、ロボット知能化の登竜門とも呼べる。「我々の思いはただ一つ、もっと多くの方々にロボットを使っていただきたいのです」

少子高齢化が進む日本は、ロボット大国であると同時に世界最高の市場でもある。工場が集積し、現場の意識が高く、フィードバックも得やすい。東京に拠点を置くMUJINが、資金力に勝る欧米企業の先をいける所以だ。既にレーザー加工や溶接加工へも活躍の場を広げ、独自プラットフォームをつくり上げつつある。最終目標は産業用ロボットが自分で見て、考え、動き、人のように働くことで工場が無人になる世界だ。MUJINが描くロードマップは大きい。


ただの製造機械を、「自律的」なロボットに
MUJINのテクノロジーは、応用の利かない「ただの製造機械」を、状況に応じて自ら動作をつくりだす「自律的なロボット」に変える。人間による個別動作プログラミングの手間をなくし、「止まらない工場」を実現する。

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MUJIN◎ 産業用ロボット向けの知能化ソフトウェアを開発する、東京大学発のスタートアップ。ブルガリア出身で、ロボットの動作計画エンジン「OpenRAVE」開発者として知られる出杏光魯仙(Rosen Diankov)が、元メーカー営業マン滝野一征と2011年に創業。14年にはジャフコおよびUTECから総額6億円を調達した。

土橋克寿 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.18 2016年1月号(2015/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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