苦境にあえぐ老舗大企業ヒューレット・パッカードに、三顧の礼で迎え入れられたCEO、メグ・ホイットマン。問題山積の2年を乗り切り、すでに同社史上最高のCEOとも評される彼女の「突破力」とは。
イーベイの最高経営責任者を経て、現在、ヒューレット・パッカード(以下HP)の舵を取るメグ・ホイットマン。彼女を語るのに、絶好の逸話がある。
26年前、ベイン・コンサルティングのジュニア・パートナーに就任したばかりのホイットマンは、やり手ではあるがやや支配的な上司、トム・ティアニーの下で働いていた。
ある朝のことだ。ホイットマンはこの誰もが恐れる上司の部屋を訪れ、尋ねた。「あなたのチーム運営を、チームのメンバーがどう思っているかお知りになりたいですか」と。ティアニーが頷くと、彼女は近くにあったペンを取り、ホワイトボードに道路工事用の巨大なローラー車の絵を描いた。「トム、これがあなたです。あなたは、ご自分の意見を押しつけすぎる。だから、このチームにはリーダーシップが育たないのです」
ティアニーは困惑したが、最後はホイットマンの意図を汲み取り、それまでの強引なやり方を改めることにした。それは、結果的にベイン全体に利益をもたすことになる。ティアニーは振り返る。
「彼女の言葉は、私にとって神の啓示だった。手厳しいやり方だったけれど、あの一件で私は彼女のことをさらに好きになったんだ」
もうひとつの例を挙げよう。
2011年9月、ホイットマンはCEOとして、混沌を極めるHPに足を踏み入れた。ライバルのデルがサーバー市場でシェアを伸ばす一方、HPの株価は1年間で42%下落し、営業利益率は2.5%にまでに落ち込んでいた。
半年後の2012年4月、HPとデルは、マイクロソフトのBing検索エンジンチームが発注する3.5億ドル規模のサーバー受注を争う。両社はこれ以前にも4度にわたり同サーバー受注を競ったが、いずれもデルが勝利した。そして今回も、マイクロソフトが選んだのはデルだった。
受注失敗を知るとホイットマンはすぐさま、当時のマイクロソフトCEO、スティーブ・バルマーに電話をか けた。「我が社に足りないものを教えてくださいませんか。社交辞令は必要ありません。次につなげられるよう、本当のところを知りたいのです」。
ほどなくしてマイクロソフトから送られてきた書類には、HPがコンペに敗れた理由が9つ列挙され、こう結ばれていた。
「もし今回、御社の提示価格が競争力のあるものだったとしても、御社に発注することはなかったと思われます」。
彼女は即座にプロジェクトチームを発足させた。総務部門、法人向けコンピューティング部門、ロジスティクス部門のトップを擁したこのチームは、ホイットマンの強い意志を核に、HPの競争力向上のための徹底したリサーチを行い、問題を解決していく。それまで4週間かかっていたソフトウェアのバグ修正を、2日に短縮した。その夏には、顧客指向を大幅に強めたアプローチをつくり上げた。
ホイットマンの正しさは証明される。 2014年1月、Bingチームは新たに5.3億ドルのサーバーを購入したが、受注したのはデルではなく、HPだったのだ。(以下略、)